穿刺の痛みと言えば、思い出す。亡夫は一時期、疼痛管理のために硬膜外ブロックをしていた。

　　　　　　　あれは、二度目の抗がん剤治療の時だったか、座薬のモルヒネが吐き気が強くて困っていた。そ

　　　　　　　こへもってきて、さらに抗がん剤による吐き気。嘔吐は体力を奪うこともあり、吐き気止めも処

　　　　　　　方されていたはずだけど、あまり効果はない印象だった。

　　　　　　　背中から背骨の硬膜外に刺した細いカテーテルには、一週間分の鎮痛剤が入ったメモリの付いた

　　　　　　　シリンジ状のポンプ？が繋がっていて、自動的にゆっくり薬が注入される。ポンプは前の方へも

　　　　　　　ってきて、シャツの胸ポケットに入れておく。彼にそのシリンジ用の袋を作ってと頼まれたので、

　　　　　　　色違いで二つ作った。使うあてはないけど、その時のチェックの布の残りは今でもタンスの中に…。

　　　　　　　状態はこんな感じ。


　　　　　　　背中のカテーテルを刺している部分は、ばい菌や風呂の水が入らないよう薄いフィルムが貼って

　　　　　　　ある。もしもばい菌が入ってしまった場合、新たにチューブを刺し直さなければならないとのこ

　　　　　　　とで、彼曰く穿刺する時がものすごく痛いんだそうな。なので刺し直すのは嫌だなぁと言って

　　　　　　　いた。

　　　　　　　一応風呂には入れるものの、その部分が湯に浸からないように、湯舟には背中の中ほどまでしか

　　　　　　　浸かれないのと、カテーテルの先にあるシリンジは湯に浸けられないのでビニール袋にくるんで

　　　　　　　いたかな。

　　　　　　　見えない背中やシリンジを気にしながら湯に浸かったり体を洗わなければならないため、風呂場

　　　　　　　でゆったり…なんてことができなくなってしまった。その辺の記憶がもうとても曖昧だけど、あ

　　　　　　　の頃は抗がん剤の副作用の脱毛で、頭を剃っていた時期だったかな。もしそうなら片手でも頭が

　　　　　　　洗えたのは多少の幸いだったかもしれないんだけど、うーん、私がシリンジを持っている間に、

　　　　　　　彼が頭を洗って、泡を流す時にカテーテル部分を私が乾いたタオルで押さえていたような気もす

　　　　　　　る。（こんなにも忘れてしまったことにちょっとショック…）

　　　　　　　なにせ、カテーテルはフィルムの上部から出ているので、上から背中に湯をかぶるとカテーテル

　　　　　　　とフィルムのわずかな隙間から入ってしまうかもしれない。背中以外を洗ったら「結、お願い～」

　　　　　　　と彼に呼ばれて私の出番。フィルム部分に乾いたタオルを当てて、注意しながら背中を洗って流

　　　　　　　す。入院中は週に何度か入浴できるんだけど、大風呂じゃないので私も一緒に風呂場へ行って脱

　　　　　　　衣所で待機。まだ暑い時期だったので、私は汗だくになったっけ。

　　　　　　　彼は「手間をかけてごめんね」って言ってくれたけど、とんでもない。私は彼のために何かを手

　　　　　　　伝えるのがうれしくてうれしくて仕方がなかった。というのも、普通嘔吐している時って、背中

　　　　　　　をさすってあげるでしょ？でも、夫はさすらないでほしいって。目の前で彼が何度も何度も苦し

　　　　　　　そうにしているのに、背中をさすれない。何もできないってのは、ちょっとつらいものがあって

　　　　　　　ですね…。だから本当にうれしかった…(｡-_-｡)

　　　　　　　ある日病室へ行くと、「硬膜外のカテーテルを抜いたんだ。うつ伏せになれるのがうれしくてし

　　　　　　　ょうがないよ♪」と彼。そっかぁ…眠っている時無意識に寝返りを打って、胸ポケットにあれが

　　　　　　　あるのは邪魔だよね。で、痛み止めは、経口のモルヒネ「コンチン」を少しずつ試していたらし

　　　　　　　く、大丈夫そうなのでカテーテルを抜いたそうな。一カ月くらいだったかな。

　　　　　　　硬膜外ブロックをやめるまで一度も刺し直さなくて済んだのは、よかったよかった。大抵の人は

　　　　　　　刺し直しをするって看護師さんが言っていたそうだ。硬膜外ブロックで嘔吐が治まったものの、

　　　　　　　硬膜外ブロックの煩わしさは、彼にとってかなりストレスだったみたい。いやあ…あれは無理も

　　　　　　　ないと思う。

　　　　　　　医師が当初コンチンを使わなかったのは、その当時コンチンの方が吐き気が起きやすいとされて

　　　　　　　いたから。夫の硬膜外ブロックのストレスが、コンチンによる吐き気を押さえていたんだろうか？

　　　　　　　コンチンを服用すると、もう大好きな車の運転はできない。そのこともあって座薬だったんだ。

　　　　　　　いろいろ、本当にあれこれとつらい経験に耐えても、耐えてもなお悪化する症状。やがてコンチ

　　　　　　　ンの服用でも嘔吐するようになり、経口薬での疼痛管理ができなくなっていった。

　　　　　　　彼の最期の日に、後輩に譲った車の調子が突然悪くなったんだよねと、後輩が話してくれたっけ。

No way…


​★　twenty one pilots - Cancer　★​