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2021.12.17
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カテゴリ:ふる里忘れがたく
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      もちろん毎年何事もない年などないのだが、多少あっても小さな営み事を繰り返していることにで

       も、しているような振りができる程度なら、まず大したことはないものだ。ただただ生まれた国が

       がおかしくなっていくという憂慮だけが年々強くなっていく。でもこれは、私一人いくら憂いても

      詮無きこと。これまでは何とか這い上がれたけど、深く成るばかりの憂いの淵に沈みゆくしかない

      のかと、もう奮い立つ気力も簡単に潰えるようになった。
   

      ところが、今年はとても忘れられない年になったのだ。18歳まで生まれ育った、小高い山を後ろに

      控えた、南向きで日当たりの良い、そこでもしも今の自分が暮らせたら、きっと私が今望んでいる

      ことの9割は叶うだろうと思う土地を、何の因果か今年私が処分した。

      このまま売れなかったら、半壊した家屋が存在した時よりぐんと高くなった、住めはしない土地の

      固定資産税を払い続けなければならなかったのだから、幸運にも私が希望した用途での買い手がつ

      いたという方がいいのだと思う。取り掛かってから四年かかった。

      散々叔母からされた「売れない話」と、私が依頼した不動産が専門ではないが、不動産も扱ってい

      るある組織の担当からも、瑕疵がある物件ゆえソーラーパネルの用途くらいしか買い手がつかない

      と言われた。担当が言うその瑕疵になる理由は、充分理解できる。依頼するずいぶん前に偶然スト

      リートビューでうちの隣家の前にある看板に気づき、粗い画像だったがズームアップして何とか判

      読出来て驚いた。素人なりにこれが土地を手放す際に影響しないはずがないと、その時から懸念し

      ていたのだ。

      ご商売上の決まり事としての説明は理解はできる。その瑕疵を買い手に明示して理解と承諾をして

      もらわねば契約にこぎつけないのだから。しかし、募集する前からこういう事だから宅地としては

      無理と言われることには、私の理解と納得がどうしても追いつかなかった。田舎ではあるが、人里

      離れた山奥の野中にポツンとある土地ではない。左右には同じ条件で昔からの住人の家々が連なっ

      ているのだ。それ等を買い手が見てどう判断するかは、募集してみなければわからないではないか。

      担当者には多少説得もされたけど、まずは宅地としての用途で募集してほしいとお願いした。買い

      手がつかなければ、その時に用途を変更すればいい。

      私が在住の場所よりははるかに隣家との間に余裕のある土地だが、土地の東西と前方には民家が立

      ち並んでいる。それらはかつて私の幼馴染の家や、幼い日に足蹴く通った駄菓子屋や、我が家が代

      々お世話になったはずの隣近所の家々。その間にソーラーパネルが存在する風景。南側から少し高

      台に位置するこの場所を見やった時の景観。近隣の住人が窓を開けた時、家から外へ出た時、生活

      圏の間近に日常的に目に入るソーラーパネルの波に、どれほどの人がストレスを感じることなく過

      ごせるだろう。

      その答えは簡単なのだ。住みはしない売り主の私自身が、ただの想像でそれを不快と思わずにいら

      れないのだ。そのようなことを、かつてのご近所さんに強要することになるかもしれない可能性が

      ゼロではないと想像するのは、あまりにもしんどかった。あの豊かな場所にあった土地には心から

      の感謝はありこそすれ、何の恨み言一つない。

      担当者が契約内容に入れてくれた条件といい、契約の成立までの過程を振り返ってみると、あれこ

      れとラッキーなことはあったのだ。だがそのことと、土地を手放すに至った数々の出来事で生じた

      この身をちりちりと焦がした翻弄や、今も心がざわついて已まない葛藤は別のものだ。呪詛のよう

      に散々「売れない」と言われた土地が処分できた事には安堵もしたが、何一つ嬉しくはなかった。

      ああこれで、私は二度とあの場所から、あの馴染んだ遠い山の稜線を望むことが叶わなくなったと、

      子どものようにこの運命を呪いたかったもの。
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      整地して以来、うちの隣の施設の駐車場替わりに使用することを許可していたが、買い手がついて

      引き渡しの期日が決まり、その日からはうちのものではなくなるので、地区の関係者の連絡先を知

      りたいと父方の叔母に電話した時だった。あまりに拍子抜けしたので、どちらの言葉だったのか覚

      えていないのだが、今頃になって「結ちゃんには申し訳ないことをした」か「可哀想なことをした」
 
      と叔母。

      私が受けた翻弄の元凶のほとんどはこの叔母で、本当に「今頃になって」だった。残念だけどあの

      土地を片付けた今になったから、叔母から聞けた言葉だと思わざるを得ないほど理解不能なことが

      あったが、それが何に対しての申し訳なさなのかは訊かなかった。

      ただ、家屋の名義が祖父から父になっていなかったために必要になった、司法書士による名義変更手

      続きのお礼の連絡をした時に、叔母から受けた最大の意味不明で理不尽な出来事が頭をよぎり、余程

      関心があるようなのでこれだけは言っておかねばと思った。

      「過ぎたことなのでもういいけど、EちゃんとH伯母ちゃんが言っていた通りでしたよ、整地にかかっ

      た費用も。私の担当者にも売れないと言われたし、実際整地にかかった費用の半分にもならなかった

      もの」と。
 

      雀の額ほどの許容範囲しかない私は、少しも過ぎたことだなんて思っていなかったけど、叔母は自分

      がさらに痩せ細ったことをまず手ぬかりなく私に告げることは忘れなかったものだから。数十年ぶり

      で再会した時に、訊ねてもいないのに唐突に家計簿の話を始めたように。

      解体には数百万かかる。不動産屋に売れやしないと言われた。結ちゃんに一任しようと姉と話し合っ

      たと言ったのは誰だったかな。姉妹で不動産屋に値踏みを持ちかけたのだから、処分に取り掛かる前、

      当然のことながら私はちゃんと叔母に確認した。「EちゃんもH伯母ちゃん家族も、あの土地が必要な

      人はいないのね?」と。居ないというので取り掛かって進めたことだ。なにせ叔母は、家屋の名義変

      更に伴う相続権の放棄手続きが、土地に関してのものだと勘違いしているような節があった。

      名義人でなくても、固定資産税の納付書は第一法定相続人宛に来る事実は、私も知らなくて驚いた。

      相続のことなど自分が当事者になるまで、正しいことなど何も知らなかったので、叔母のことを言え

      る立場ではない。親が死亡したら、子どもの相続権は両親の離婚の有無に関係なく発生することや、

      配偶者は常に法定相続人であるとネットで知った後、何気なく母のアパートから持ってきた戸籍で、

      両親がまだ離婚していない事実にショックを受け体調を崩したのは、母の死後二度目の伊豆行きの直

      前だった。そもそも、親の離婚の有無など考えることもなく、また母とそのことについて一度も話す

      こともないまま、長い年月が流れていた。

      だが叔母の場合は、「それにしても」の範疇の話だと思う。言っておかねばならなかったのは、違う

      事だったかもしれないと今になって思う。あの土地の整地に使ったお金は、小姑の貴女がねちねちい

      びっていたんであろう私の母の遺産ですよ。

      夏の話を冬に書いた。それはまだ誰でもない冬生まれのあたしのあしたのために。



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最終更新日  2022.06.21 06:14:08
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