島田荘司『改訂完全版 踊る手なが猿』
(島田荘司『島田荘司全集IX』南雲堂、2024年、221-393頁)
吉敷竹史シリーズの短編1編ほか、ノンシリーズの短編3編の計4編を収録した短編集です。
それでは、簡単に内容紹介(2007.08.31の記事のほぼ再録)と感想を。
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「踊る手なが猿」地下道の喫茶店Bに勤める私は、向かいのケーキ屋Qのガラスケースに飾られた手なが猿の人形(?)に興味をもっていた。というのも、猿には赤いリボンが結ばれているのだが、三日ほどの短い期間で、足の先や腕の先などに、そのリボンの位置が変えられるからである。一方、関係をもっていたBの店長が、少し外出すると言って出かけた日に、店長が死亡するという事件が起こる。
「Y字路」昭和63年(1988年)11月。アパートに帰宅した瑛子は、見知らぬ男の死体が部屋に横たわっているのに気付き、動揺する。このままでは、もとより彼女のことを疎ましく思っている恋人の母親から何を言われるかわからず、恋人と結婚できなくなってしまう…。瑛子は、恋人に助けを求めた。そこで恋人は、一計を案じる。
「赤と白の殺意」私は、子供時分に軽井沢で過ごしたはずだが、その後はどうしても軽井沢に行く気になれなかった。ところが、ある日好奇心で受けた心理テストで、自分には殺人の記憶が抑圧されているのかと考えるようになる。真っ白い雪の中にある、赤い水のイメージ…。私は、抑圧された記憶を探るために、軽井沢へ向かった。
「暗闇団子」加賀から江戸にやってきた四方助は、書物を書き写す筆耕の仕事をしながら、細々と暮らしていた。友人に連れられ、有名な花魁、辰巳花魁と出会った四方助は、初日からお床入りすることになった。美しい彼女を忘れられないながらも、次第にあの経験は夢だったと思い始めた四方助のもとに訪れた、辰巳花魁。吉原の火事に乗じて逃げてきた彼女とともに、四方助は団子屋を開くことになるが…。
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表題作は島田荘司さんが展開していた(いる)都市論を感じさせるテーマの作品。
「Y字路」が吉敷シリーズの短編で、倒叙風でありながら主人公にとっては意外な結末が待っています。
「赤と白の殺意」は、全集版あとがきによれば、バイク雑誌に掲載された作品とのこと。割と好みのタイプの作品です。
異色作であり、同時に最も印象的なのが末尾の「暗闇団子」です。表題作で都市論について触れましたが、同時に島田さんは江戸論も展開していて(全集版あとがきにもあるように、その集大成が2010年の『写楽 閉じた国の幻』)、本作は江戸のある夫婦を描く物語です。今回は、御手洗シリーズの「大根奇聞」(『最後のディナー』所収』も連想しながら読みました。
このように、バラエティに富んだ1冊です。
(2024.06.24読了)
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