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カテゴリ:連載小説
ところで、お前はなんで女郎に身を落としたんだって? 旦那、よくぞきいておくれだねえ。 話が横道へそれたついでに、それじゃあ、私の身の上話でも しましょうかねえ。 さっきも言ったように、長橋中尉には片思いのままだったけど、 私にほれ込んだ男がでてきましてね。 私も憎からず思うようになった。 その相手っていうのが、四谷の呉服屋の若旦那でね、 浩太郎ってえ名だった。 ちょうどその頃、私に旦那をとるって話がふってわいてねえ。 いやさ、60歳前のじじいが私の旦那にって名乗りでたんだよ。 私がまだ19にもならないっていうのに、あんまりって言えば、 あんまりだよねえ。 そいつは、麻布の米屋でたんまりお金のある奴だったけど、 私にすりゃあ、身の毛もよだつほどいやだったよ。 浩太郎が私にホの字だったのは、通いはじめの頃から ぴーんときて、わかっていたんだよ。 だから、私は浩太郎に旦那をとらされるって話を打ち明けた ってわけよ。 そしたら、浩太郎は、血相を変えたよ。 「そんなことは、この俺がさせやしない」 って、浩太郎は真剣になって言うじゃあないか。 さすがに、うれしかったよ。 (続く)
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Last updated
2006年10月04日 16時27分37秒
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