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テーマ:ショートショート。(573)
カテゴリ:ショートショート
秋風や殺すにたらぬ人ひとり 西島麦南
私にそむいて別の男に走った女を、一時は殺そうかと 思ったほど逆上したが、しばらくたって考え直してみると、 ばかばかしくなってきた。 殺さなければならないほど、私は彼女に執着しているのかと 自分に訊いてみると、いや、そうではない、ただ男の面子が 立たないだけなのかもしれないと、いう気になってきた。 えり子は、私の親友のKのもとに去った。 もしも、私の知らない男であったのなら、案外平静であったかも しれないのだ。 相手がKであったということが、私を一瞬であれ、血迷わせた のだと思うようになった。 もしも、運悪く、あの時私の身近に凶器となるようなもの、 たとえば、カッターだとかがあったならば、私はまちがいなく 彼女の背に突き刺していたにちがいないのだ。 そう思うことで私はかろうじて自分を冷静に保つことが できたのだ。 あんな女は殺すには価しない! 秋風に吹かれながら、私はひとり乾いた笑みを浮かべた。 (完) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006年10月14日 13時00分24秒
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