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2006年10月14日
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カテゴリ:ショートショート

    

 

         秋風や殺すにたらぬ人ひとり   西島麦南

 

 私にそむいて別の男に走った女を、一時は殺そうかと

 思ったほど逆上したが、しばらくたって考え直してみると、

 ばかばかしくなってきた。

 殺さなければならないほど、私は彼女に執着しているのかと

 自分に訊いてみると、いや、そうではない、ただ男の面子が

 立たないだけなのかもしれないと、いう気になってきた。

 えり子は、私の親友のKのもとに去った。

 もしも、私の知らない男であったのなら、案外平静であったかも

 しれないのだ。

 相手がKであったということが、私を一瞬であれ、血迷わせた

 のだと思うようになった。

 もしも、運悪く、あの時私の身近に凶器となるようなもの、

 たとえば、カッターだとかがあったならば、私はまちがいなく

 彼女の背に突き刺していたにちがいないのだ。

 そう思うことで私はかろうじて自分を冷静に保つことが

 できたのだ。

 あんな女は殺すには価しない!

 秋風に吹かれながら、私はひとり乾いた笑みを浮かべた。

          (完)






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Last updated  2006年10月14日 13時00分24秒
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