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テーマ:■ムービー所感■(484)
カテゴリ:ドイツ映画
よく作られた作品でした。実際にヒトラーの秘書をしていた女性の証言をもとに、その最期とドイツの敗戦までを描きます。 当時を描いた近年の佳作といえば『シンドラーのリスト』。こちらは、人々が虫けらのように殺され、あまりの冷酷さに再度見返すことが難しいほどの映画でした。 本作はノンフィクションでありながら、映画らしいドラマを演出した、人を選ばない、より幅の広い作品になっていました。それでいて考えさせることができる。 (あらすじ)1942年、トラウドゥル・ユンゲは数人の候補の中からヒトラー総統の個人秘書に抜擢された。1945年4月20日、ベルリン。第二次大戦は佳境を迎え、ドイツ軍は連合軍に追い詰められつつあった。ヒトラーは身内や側近と共に首相官邸の地下要塞へ潜り、ユンゲもあとに続く。そこで彼女は、冷静さを失い狂人化していくヒトラーを目の当たりにするのだった・・・・。 人類史上屈指の残忍な男に残されている人間性が、見事に表現されていました。秘書のユンゲや恋人には、優しい顔と弱さを見せていたヒトラー。 神経質に怒鳴りちらす、血も涙もない男のもうひとつの一面に、つい引き込まれていきました。 ブルーノ・ガンツの名演がただただ素晴らしいというものあるけれど、人間として好奇心に駆られる人物像であることはたしかでした。 その好奇心でもって、総統の秘書となったのが当時23歳のトラウドゥル・ユンゲ。 地下要塞で過ごした彼女はずっと、大虐殺やドイツ市民の無残な死を、自分と結びつけることができなかった――そう冒頭で証言します。 それでも「若さのせいにしてはいけない」と、おばちゃんになった彼女は締めくくります。半分ドキュメンタリーであるぶん、重さが違う。この言葉の重さは『シンドラーのリスト』で生き延びたユダヤ人が画面に映し出されたのと同じだと思う。 総統を取り巻く人々の描写も、複雑でありながら見事。 実在の軍人が辿った、たくさんの波乱の生涯や功績や非情さ。事実だと思うからこそ、目を背けられません。 巧みによく描ききっていると感心するのみでした。 残虐さをあえて見せるか、見せないか。見せないで表現するほうがよほど難しいと思う。 いかに死に様が恐ろしくても、あえて見せずに撮る方法を選んだシーンは、絶妙に選ばれていて、監督の手腕を感じます。 観て良かった。恐ろしいなかに、うっすらと横たわるユーモアが素晴らしい。 禁煙である要塞での煙草の扱いかた、乱痴気騒ぎが物語る様も見事です。 監督は『es[エス]』が鮮烈だった、オリヴァー・ヒルシュビーゲル。 監督 オリヴァー・ヒルシュビーゲル 原作 ヨアヒム・フェスト 『ヒトラー 最期の12日間』 トラウドゥル・ユンゲ 『私はヒトラーの秘書だった』 脚本 ベルント・アイヒンガー 音楽 ステファン・ツァハリアス 出演 ブルーノ・ガンツ アレクサンドラ・マリア・ラーラ ユリアーネ・ケーラー トーマス・クレッチマン (カラー/155分/ドイツ・イタリア合作/DER UNTERGANG) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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