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行きかふ人も又

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2008.11.16
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カテゴリ:ソ連・ロシア映画

 壮絶な作品でした。
ロシアの陰鬱な雰囲気のなかで、12年ぶりに突然帰ってきた父親と息子たちが再会して起こる、衝撃の物語。
12年ぶりというのだから、兄弟は中学生くらいでしょう。大人になりかけの兄アンドレイと、まだ幼さの残る弟イワン。ふたりの父親に対する態度はまったく違います。
12年間何をしていたか語らない父親でしたが、それでも、初めて接する父性に戸惑いつつ喜びを感じているのは確かなようでした。

帰ってきた翌日、母親の提案で父は息子たちを小旅行へと連れ出します。
車に大きな荷物と釣竿を積んで、何が起こるのかわからないままに、一緒にいるのが、本当に父親だという確証もないまま、旅は始まります。兄弟たちの探るような態度が印象に残りました。
突然触れた父親というものの、あまりの武骨さに戸惑いながら、その横暴さに怯えて困惑するふたり。兄は従順さを装えても、幼い弟イワンはイラつきを隠さず、幾度も幾度も衝突が起こるのでした。

観る側にさえ、この父親という人が、いったい今まで何処で何をしていたのか知らされません。心の中でなにを考えているのか、わからない。
必然的に、感情移入するのは兄弟たちにで、この得体の知れない男の横暴に耐えている彼らを、ただハラハラと見守るしかありません。
腹がたてば置き去りにし、空腹を我慢させ、笑顔のひとつもこぼさない父親・・・。
突然ボートで島に渡ると言った時は、これから先がどうなるのか、緊張でいっぱいになりました。 まさか殺されるのでは?!と思って。

tn2_vozvrashcheniye_2.jpg 1505432.jpg


辿り着いた無人島。父親は命令を下すだけです。支配者のように。息子たちと離れていた空白を埋めようともせず、ただの一度も戯れない。
やがて当然のように、兄弟たちの不信は憤りや恐怖へと変わって・・・驚くべき悲劇が起こってしまうのでした。

兄弟を演じた子役たちの繊細な演技と、父親の徹底した態度の存在感がとにかく見事で、絶え間ない恐怖や焦燥感を味わいました。陰鬱なのはロシアのグレーの大地ゆえ、そしてよく降る雨のせいかもしれません。雨・海、この水の感じがソクーロフ風といわれる所以でしょうか。

始終、怖れ怯えていたはずの兄弟なのに、ラストのスナップ写真の映像で、彼らが輝いていたことを思ってハッとしました。
少年たちは生命力に溢れていて、強靭かつナイーブだということに、気づけるのは最後になってから。
彼らの成長も、真実を知ることの無意味さも、父親の内心も合わせて、理解できるのは本当に本当に最後になってからなのでした。
父親との一生忘れられない時間を過ごした彼らの、未来まで想像してしまえそうなラストです。
いくつか謎を残したのは、想像にお任せする――ということでしょうか。父親が掘り起こしたあの箱の中身は、息子たちの思い出の品だったらいいのに・・。
それにしても、こんなに不器用な父親なんてちょっと想像しがたいですが、ロシアならありそう、なんて思えてしまうのは偏見でしょうか。




監督  アンドレイ・ズビャギンツェフ
脚本  ウラジーミル・モイセエンコ  アレクサンドル・ノヴォトツキー
撮影  ミハイル・クリチマン
音楽  アンドレイ・デルガチョフ
出演  イワン・ドブロヌラヴォフ  ウラジーミル・ガーリン  コンスタンチン・ラヴロネンコ
(カラー/111分)






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Last updated  2008.11.16 20:39:05
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