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テーマ:■ムービー所感■(484)
カテゴリ:ドイツ映画
類いまれなピアノの才能を持ちながら、殺人犯として収監され、刑務所の中でも手のつけられない問題児となったジェニー。彼女の才能に惚れ込み、残り少ない人生を懸ける老教師トラウデ、2人の魂のぶつかり合いを衝撃的に描く――。 ジェニーだけでなく、トラウデに芸術を学ぶ看守と、トラウデ自身、三つの人生が変わっていく。 ナチスの台頭する時代、軍事病院だったこの場所で、看護婦として働いていたトラウデ。当時の辛い過去を綴る回想シーンを縦糸に、それぞれの現在進行形の苦しみが力強く描かれていた。 「音楽しか愛せない」そう話すトラウデには、隠したい秘密がある。それは彼女が同性愛者であるという事実。 受刑者となったジェニーにも、辛すぎる過去があり、それぞれに背負った苦しみから解放されるには、問題に真向からぶつかることが、なにより必要のようだった。 年齢の差こそあれ、ふたりに共通する音楽、ピアノの才能。言葉以上に雄弁に心を語るのに、芸術は頼れる媒体となっていく。 激しく痛む傷に塩をもみこみ、相手の為より目的のためだったとしても、狡猾さを隠さない。血の出るほど過酷で真剣なぶつかり合いを繰り返していても、結局はお互いそれによって相手を救っている。 同性愛者であるトラウデに、ジェニーに対する特別な感情が芽生えたかどうかは、最後までわからなかった。 ふたりに起こった過去はツライ。でも、長く孤独に生きてきたトラウデは言う。 「才能を持って生まれた者の使命は?」と。彼女の使命は、自国の悲劇的な時代を生き抜くことだった。使命をまっとうする=普遍的なテーマ性がある。 平凡なわたしには、看守の変化が、もっとも身近だった。凶暴なジェニーに半死半生の怪我を負わされてから、温厚に見えたはずの彼は、殺したいほど彼女を憎んでしまう。そんな自分の感情と向き合い、トラウデの真摯な姿に触れて、少しずつジェニーを赦していった看守の、人間としての成長が、暗い物語にほのかな光を添えてくれる。 如才ない作品とまでは言えないけれど、落ち着いた見事な小品だった。 全編に流れる様々なピアノ曲と、ジェニーの壮絶な演奏シーンはなるほど圧巻。あんな弾き方には、賛否両論あるかもしれないが、生き様の表れた魂を感じる名場面だと手放しで心奪われた。 監督・脚本/ クリス・クラウス 撮影/ ユーディット・カウフマン 音楽/ アネッテ・フォックス 出演/ モニカ・ブライブトロイ ハンナー・ヘルツシュプルング スヴェン・ピッピッヒ (カラー/115分) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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