1944年12月、ナチス・ドイツは劣勢に陥っていた。宣伝相ゲッベルスは、新年に
ヒトラーによる演説を大々的に行い、映画に仕上げて起死回生を図ることを思いつく。
しかし、ヒトラーは自信喪失してスピーチどころではなかった。そこでゲッベルスは、
わずか5日間でヒトラーを再生させるという大役を、世界的俳優アドルフ・グリュンバ
ウム教授に託すことに。すぐさま強制収容所からグリュンバウム教授が移送されて
くるのだが・・・。
シニカル万歳。深刻な歴史を、ユーモアで伝えるドイツ映画はやはりシューール。
邦画も、こんな風に楽しめる反戦映画を作ればいいのに。こんな滑稽でばかげた時代、
二度と繰り返したくはないと真剣に思うから。
しつこいほど繰り返される「ハイル!」の敬礼。ヒトラーに課される、恥ずかしい特訓の
数々。教授に心からの信頼を寄せ、頼りきる必死のヒトラーを見ていると、無様で情け
なくて、悲しくなってくる。フィクションとはいえ、ひとりの人間の弱さをしみじみ感じてし
まう。
教授の命がけの数日とともに、超人間味溢れるシニカル一色の物語は、けして幸せな
結末ではないが、語り口の軽妙さとケレン味が、いいカンジの後味を残してくれる。
本編で教授を演じたのは『善き人のためのソナタ』のウルリッヒ・ミューエ。
この味わいある俳優さんは、2007年7月に胃癌でこの世を去っていて、本作が遺作。
死の恐怖、葛藤、同情・・・様々な感情をユーモア交えて演じきったウルリッヒ・ミュー
エの最期の演技。『善き人のためのソナタ』ほど有名な作品ではないけれど、ほんとうに、
見てよかったと思う。
監督・脚本/ ダニー・レヴィ
音楽/ ニキ・ライザー
出演/ ウルリッヒ・ミューエ ヘルゲ・シュナイダー シルヴェスター・グロート
(カラー/95min)