神無月 ---暦日記
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10月といえば、体育の日だ。
自分にも子どもたちにも(現在のところ)、運動部に所属して日夜練習に励む、というような経験がない。学生時代、夫はバスケットボールと陸上をやっていたというけれど、わたしはその時代を知らない。知っていたなら、どんなにかおもしろかっただろうに、とも、また、さぞ熱をこめて応援しただろうに、とも思うけれど、残念なことだ。
そういうわけなので、わたしが「体育の日」から連想するものはといえば——。
◆ 運動靴のひもを結ぶ
ひもを結ぶのを、わたしにおしえたのは父だ。
こういう役目を父がするとは、両親相談尽(そうだんづく)のことだったのかどうか、ひもを結ぶ、はさみを使う、鉛筆を削る、雑巾をしぼる、ものを拭く、といった類のことは、ほとんど父からおそわった。いつも、いきなり手ほどきがはじまる。
ひもの結び方のときは、とつぜん泉屋のクッキーの缶の四角いふたが目の前に置かれたのだった。それと、1本のひも。
わたしの時代のひとで、泉屋のクッキーを知らないひとはいないだろう。当時、到来物のクッキーといえば、泉屋のだった。白地に紺色のロゴの入った缶を見るだけで、こころが踊った。
——ひもを、こういう具合に十字にかけて、ひもの交わるここで蝶結びをするんだ。
そう云いながら、父はわたしの隣りにやってきて、同じ向きで、缶にひもを十字にかけ、蝶結びをする仕草を見せた、何度も何度も。実際にやってみると、なかなかうまくいかない。できるようになるまで、かなり時がかかった憶えがある。おぼつかぬ手もとを、じっと見守ってくれた末に「それでいい」とひとこと云うと、缶のふたとひもを持って、どこかへ行ってしまった。
そののち、たいていのものが結べるようになっていたのに、我ながら驚く。わけても、初めて買ってもらったアップシューズの、むずかしそうに見えた靴ひもを、難なく結べたときは、ほおっとなった。小学1年のときのことだ。
わたしが子どもに、そろそろひもの結び方をおしえようというときには、なつかしい泉屋のクッキーをもとめてきて、その四角いふたで練習したのは、云うまでもない。何もかもがすぐと変わってしまうこの時代に、何ひとつ変わらないクッキーに再会したこともうれしかった。
◆ てるてるぼうず
気象衛星の力を借りて、やけにくわしい天気予報がなされようと、いまもって、子どもばかりでなく大人までもが、遠足や運動会の前の日にてるてるぼうずをつくろうとするのは、じつに愉快だ。「てるてるぼうずごころ」が消えずにあるうちは、ひとのなかに自然や天候を敬(うやま)う気持ちが残っている証拠のような気がするからだ。
わたしも、ときどきこしらえる。
白い布(紙)をひろげたまんなかに、まるめた紙を置き、それを頭に見立てて首をつくり、ひもでしばる。これを窓辺にぶら下げるのだ。
そうそう、願いをこめてぶら下げるときには、てるてるさんの目鼻は描かない。
——願いどおり、天気になったら、初めて顔を描くのよ。
と、祖母におそわった(※)。晴れて顔をつけたあと、昔は「金の鈴をあげたり」、「甘い酒をたんと飲ませたり」したものらしいが、わたしは、数日窓辺に坐ってもらうだけである。
あれは上の子どもが中学生のときのことだ。
めずらしく神妙な顔をして、てるてるさんをつくっていた。
——怪我をした先輩がちょっとでもバスケットボールの試合に出られますように。たとえ出られなくても、こころが元気でいられますように。
と云いながら、軒先に吊るしている。
——てるてるぼうずって、「あした天気にしておくれ」と願うための存在で、あなたの願いは、その領域からずれてるんじゃあ……。だいいちバスケットボールはインドアの競技ではないか。
そう思いかけて、はっとする。
願いは、こころが晴れるということだな、と気がついて。翌日の夕方、てるてるさんは、少しすました顔をして、子どもの机の上に坐っていた。ちょこんと。
てるてるぼうず、てるぼうず、あした天気にしておくれ。
※祖母は、このとき「雨を願うときには、さかさに吊るすのよ」とおしえてくれました。ものの本には、黒い布(紙)でつくると雨を願うことになる、とあります。
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友人に、運動靴の結び方をおしえてもらいました。
オーソドックスな蝶結びです。
わかりやすいように、
赤いひも(左)と白いひも(右)を結んでみます。
靴の先は上です。
①結び目をつくります。
②左右のひもを、写真のように輪にする。
③ちょっとわかりにくいですが、
このとおりに2つの輪っかを組み合わせると……。
④③で組み合わせたふたつの輪っかを、
左右にひっぱると……、具合のいい蝶結びに、
なります。
*
友人のおかげで、靴ひもの結び方に、
いろんな種類があることを知り、驚いています。
運動靴の上部に編みこみが広がるような、
芸術的な結び方まで見せてもらいました。
が、わたしには、とてもとても。