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ラインの黄金仮面 Weekly

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November 30, 2006
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カテゴリ:オペラ・音楽
フィデリオ
 今日は新国立劇場のオペラ公演に行って参りました!演目はベートーヴェン作曲の『フィデリオ』。
 いやぁ、ひっさびさの生オペラ観劇でした。本当は6月にやはり新国立の『こうもり』を観劇する予定だったのですが、突然の入院であえなくパ~っ・・。思えば、昨年も新国立の『マイスタージンガー』を見に行く予定を立てておきながら、これまた入院でパ~っ、だったので、また『フィデリオ』も入院しないか??と少々不安に思っていましたが、こちらは無事に観劇することができました。
 久々の生オペラ、ものすごく興奮しました!生オペラに触れることが、こんなにドキドキワクワクするなんて!新鮮な気持ちで鑑賞することができました。

 最近は先日のマスタークラスのレッスンに見るように、自身の中ではイタリアオペラが主流となっていただけに、生どころか、ドイツオペラを鑑賞すること自体がものすごく久しぶりな感じでした。イタリアものはサイコーだけど、ドイツものもエクセレント!でした。

 『フィデリオ』は楽聖ベートーヴェンが世に残した唯一のオペラとして有名です。決してできの良い作品とは言えないと思うのですが、“あの”ベートーヴェン唯一のオペラという事もあって、とにかく存在感バリバリのオペラです。オペラとしてはいろいろな点で欠点があるものの、やはり“あの”ベートーヴェンがかなり思い入れを強くして書いたオペラだけに、一筋縄ではいかない作品です。駄演・凡演だとと~ってもつまらないオペラですが、これが演奏家の出来によっては圧倒的な感動を呼び起こす作品となります。

 CDで聞いた事のある『フィデリオ』では何度か、胸にぐっと来るような、時には頭をバットでぶん殴られたかのような、衝撃的な演奏にであったこともあります。いくつか例を挙げるならば、初の海外オペラ団体の引越し公演として有名なベーム指揮、ベルリン・ドイツ・オペラのライブ、バーンスタイン指揮、ウィーンフィルによる演奏(映像もあり)、そしてフルトヴェングラー指揮ウィーンフィル(ザルツブルグ音楽祭のライブ)のものです。なんだか、こう見るとバリバリのロマン派的な演奏ばかりですが・・、やっぱり劇的なベートーヴェンですから、これくらいのパワーがないと・・。最近は流行のピリオド楽器またはその奏法を取り入れた演奏による録音が幅を利かせていますが、私はちょっと苦手・・。なんだか耳に痛くて聞いていて心地よいと感じた事がないからです・・。でも、現代のクラシック音楽の奏法の流れはどうやらこのピリオド奏法系ですよねぇ~。なんとも心がすさぶ最近の鋭角的なオペラ演出と呼応するかのような感じで、
納得しかねるところがあります・・。

 さて、そんなこんなんで、今回の『フィデリオ』です。キャスト等は以下のとおり・・

 指揮:コルネリウス・マイスター 演奏:東京フィルハーモニー管弦楽団
 演出:マルコ・アルトゥーロ・マレッリ(再演演出:菅尾 友)

 レオノーレ(男装してフィデリオと名乗る): エヴァ・グスタフソン(S)
 フロレスタン(政治犯として投獄されたレオノーレの夫):ステファン・グールド(T)
 ドン・ピツァロ(警視総監):ハルトムート・ヴェルカー(Br)
 ロッコ(看守):長谷川顕(B)
 マルツェリーネ(ロッコの娘):中村恵理(S)
 ヤキーノ(ロッコの部下):樋口達哉(T)
 ドン・フェルナンド(大臣):大島幾雄(Br)

 今度は新国立の監督が若杉弘さんになるそうですが、それまでのノヴォラフスキー体制の新国立はイタリアものにイタリアの血をほとんど起用しないという事で心あるファンからはかなり怒りを買っていたようですが(多分、演出・舞台重視ということで音楽的な面は多少軽んじられていたのやも・・)、ドイツものとなると何故か一転豪華主義・・。グスタフソンは最近ワーグナーソプラノとしてぐいぐい頭角を現していますし、グールドはヘルデンテナーの注目株、そしてヴェルカーはウィーンで活躍するヴェテランのいぶし銀バリトン。これを聞いてはやはり行かずにはおれない!という感じでした。

 いやぁ、もう、何と言ったらよいか・・。オペラをまず演出から語るのは少し抵抗があるのですが、でも言いたい!!なんじゃぁ!!あのラストはぁ??怒ってる序曲で、いきなり真っ赤な服を着た女性レオノーラが舞台の上であわただしく男服にバタバタと着替えるのは許しましょう・・。(正直あまり美しくなかったけれど・・)、その他の演出も特に語る事は無いくらい、まぁ、さしたるひらめきがあるわけでもなく無難に進んでいたのですが、、悪徳警視総監の圧制から開放された人々が歓喜に沸くフィナーレ・・。なぜ、ここで出てくる人々がウェディングドレスの女性達とタキシードの男性なんです??!!本来なら、刑務所から開放された囚人や圧制に苦しめられたスペインの人々がどっと出てくる場面なのに・・。レオノーレとフロレスタンが苦しみから解放され喜んでいる、その暗闇の後ろでなにやら不気味な黒と白の物体がうごめいていると思ったら、まさか新婚ほやほやのめおと達がドドッ!と大挙してやってくるとは・・。最後の最後でやってくれたっ!!って感じです。もう怒り爆発ですよ・・。そりゃ、このレオノーレとフロレスタンのまさに夫婦の鏡みたいな姿をこれから夫婦生活を送る若い夫婦達にみてもらいたい!という事を訴えたいのだろうけれど、それを舞台上でわざわざする必要があるわけなのだろうか・・。閉鎖的な暗闇からババッ!と開放された、その歓喜こそが、このオペラのテーマではなかったのでしょうか??それは第九交響曲にも通じる歓喜です。それがこのへんちくりんな演出でもって途端に解放感から絶望感へと突き落とされたのは私だけでしょうか・・。もう気分はこんな感じ→しょんぼりそのフィナーレの舞台は上のポスターの写真の通りです。ここで、男装のレオノーラは激しくその服を脱ぐと下は冒頭の真っ赤な服。歌い手の豊満な肉体と相俟って、まるで女子プロレスラー!!まわりは白いドレスの女達だから余計に目立つ・・。もう、私の周りでも何人か笑ってましたよ・・。音楽だって、閉塞的だったところから、「この響きではない!!」といわんばかりに大爆発して一斉に歓喜に沸くはずなのに・・。でも、よくよく考えてみると、今回の舞台、解放感も無ければ、閉塞感も実に薄かった・・。それは特に合唱やエキストラそしておそらく再演の演出にも責任があるのかな、と・・。とにかく合唱団やエキストラの集中力のなさがハッキリ・・。歌はみな素晴らしい声です。しかし、抑圧された感覚がまったく無いんですね。これでもかと元気よく歌う。囚人に扮していても、ピツァロに従ずる兵士達にしても、緊張感がまったく無い歌。そして動きも実に緩慢なんですね。頼りないピツァロの兵士達の行進・・。これではピツァロの威厳も半減・・。おまけに舞台上をバタバタと音を立てて歩く不様さといったらありません。この集中力の無さはおそらく再演の演出家の責任大だと・・。オペラ演出の解釈云々の前段階の話です。これはいけません。そういえば、あとひとつ、何故か、一幕で囚人がフィデリオの計らいで外の空気を吸わせてもらえるようわずかな時間開放され、それで囚人が喜ぶという場面があるのですが、何故か、彼らは太極拳のようなポーズを取る・・。まるで、早朝、公園で音楽にのせて太極拳を踊るおじいさん達のように・・。奇妙な光景でした・・。
 さて、問題はオーケストラの方にもあります。まぁ、おそらく指揮者の方はまだまだ経験が浅く(とても若くてイケメンの方ですが→イケメンだからひがんでいるわけではありませんショック)統率力が無いのか、解釈が甘いのか、とにかくそれは若いからという事で諦めもつきます。(しかし、曲が作れていなかったかというとそんな事はなかったかと・・。)問題は東フィルです。『フィデリオ』全曲はそう演奏する機会も無いでしょうから、大目に見たとしても、序曲くらいはかなり演奏してるでしょうに・・。あの不甲斐ない演奏はなんでしょうか・・。音が薄っぺらくて、アンサンブルもしょっちゅう崩れる・・。ベートーヴェンを聞いている愉楽が味わえないのです。指揮者が若いからと甘えていたのでしょうか・・・。ブラヴォーの声飛び交う中で指揮者だけがブーイングを浴びていたのが印象的でした・・。でも、指揮者だけの責任ではありませんね・・。
 さて、ソリストの人はというと、概して皆さんレベルが高い・・。特に一番で出しの歌を歌う、ヤキーノとマルツェリーネの若い2人を歌ったお二人が新鮮で、伸びがよく軽やかな声。演技もイキイキしていました。2人の歌声で退屈に陥りがちな場面が楽しめました。そして父を演じるバスの長谷川さんは、今一番ドイツもののオペラを安定して聴くことのできる日本人バスです。日本人どころか、外人を向こうに回しても、その堂々たる歌いっぷりは見事。ただ欲を言うなら、このロッコという役柄はとても人間味溢れた役柄。長谷川さんの歌や芝居は生真面目すぎてその面が一向に出てこないんですね。だからアンサンブルにしても他のキャラとのメリハリがないのでその分退屈・・。主人公を歌うグスタフソンは結構力強い声の持ち主でした。ただちょっと歌が不安定な部分もあり、凄い歌手だとは思いますが、フィデリオという役柄を歌いこなせているかというと少々疑問も・・。ピツァロのヴェルカーはやはり存在感がバリバリ。硬質な声もいかにもドイツ系のバリトンという感じ。ただ、このピツァロの場合、ドイツ系の悪役には多いバスバリトン系の声を求められているだけに、ヴェルカーには少し低くて辛いかなぁ・・と思うような場面も多々散見されました。でも、カッコいい事は確かでした。大臣フェルナンドには日本のドイツ的バリトンの雄、大島さんでしたが、、あまりの頼りなさげな歌唱に拍子抜け・・。かなり期待していただけにがっくり・・。そもそもフェルナンドは登場時間が10分も満たないくらいのちょい役にも関わらず力強い声のバリトンが求められるため、レコーディングなどでも名だたるバリトン、バス族が歌っているような重要な役。正直、えっ!・どうしたの!!と言った感じでした。この日の最たる収穫はフロレスタン役のグールド。この人、素晴らしいヘルデンテナーです。ヘルデン(英雄的)テナーは90年代からアメリカ人を中心に何人も出ていますが、皆、歌いとおすことは出来ても、とにかく歌えるだけで満足させられていたのですが、このグールドはたわわな声と見事な表現力、そして、高音になっても力強く太い声がきちんと持続している。声自体も押し出すというよりは甘い感じが声に乗ってくるんですね。久々の収穫。この人、来年の小澤征爾の『タンホイザー』を歌うんだよなぁ・・。聴きたくなりました。

 まぁ、こんな感じで不満と満足入り乱れた感じでしたが、久々の生のオペラ、そしてかみさんと一緒に見る事のできたオペラ。幕間でサンドウィッチをほうばりながらああでもない、こうでもないといっている、このひとときの時間が楽しかったです。新国立は託児所もあって、我がジークフリートはココで随分と楽しませてもらったようです。「またくるねっ!」なんて託児所の方に行っていました。じゃぁ、また新国立に聴きに行こう!!





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Last updated  December 6, 2006 01:12:42 AM
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