メル・ブルックス賛!
メル・ブルックス。意外に日本では“知る人ぞ知る”的な人だと思うのですが、ハリウッドでは有名な20世紀最高の喜劇映画人の一人です。あえて映画人としたのは、彼は同じく名喜劇映画人だったチャップリンと同じように、自作の作品の製作、監督、脚本、主題歌作曲、主演と、マルチに活躍した人だからであります。 その作風は、きわめておバカ風。チャップリン映画のようにバカバカしさのなかに悲哀がこもっていたり、強いメッセージ性が溢れていたり、そういったことは一切なし!!とにかく楽しく面白くがモットー!しかも、あまりにバカバカしい映画なのに、見終わった後はしっかり1本の映画を見たぞ!!っという充実感を味あわせてくれるのです。 また彼の映画はパロディーものが多いのです。『プロデューサーズ』もいわば、ブロードウェーを風刺した一種のパロディだし、「フランケンシュタイン」をパロった『ヤングフランケンシュタイン』、ヒッチコック映画をパロった『新サイコ』、「スターウォーズ」をパロった『スペースボール』、ロビンフッドをパロった『ロビンフッド キングオブタイツ』など枚挙にいとまがありません。90年代以降の彼の作品『ロビンフッド』などは元になる映画も大したことはなく、ブルックスの元ネタの映画に対する愛情もあまり感じられず、面白さは残念ながら薄れていますが、60、70年代の彼の作品は完全に油の乗った、まさに喜劇の天才のなせる業、的な粒ぞろいの作品ばかりです!! 彼は喜劇的センスだけではなく、映画製作者としての手腕も非常に高いのです。自らブルックスフィルムを立ち上げ、デビッド・リンチの不朽の名作『エレファントマン』やデビッド・クローネンバーグのホラー『ザ・フライ』などの話題作を製作していますし、彼のもとから巣立った映画人というのも数多いのです。中でも有名なのはアカデミー受賞作『レインマン』を監督したバリー・レビンソン。彼はブルックスの映画で脚本を書き、チョイ役(おいしい役)で出演も果たしています。また、彼の映画に係わった映画人も豪華。たとえば、彼の映画の特殊効果は『遊星からの物体X』等でも特殊効果を担当したA・j・ホワトロックだったり(彼もちょい役で出演したりしていた・・)、音楽はいつもJ・モリスのゴージャスなサウンド。出演する役者達も普段コメディよりも名演技で魅せる名役者、たとえばC・リーチマン、M・カーン等と言った人たちはブルックスファミリーですし、彼の元で巣立ったといっても過言で無いG・ワイルダーやM・フェルドマン、D・デルイズといったコメディアンも凄いですし、ゲスト的な役者達もG・ハックマンやP・ニューマンなど超豪華!単なるコメディにこれだけの豪華な役者が出たというのもこのブルックスだったればこそでしょう。ここでブルックスの作品紹介ですっ☆『プロデューサーズ』 そう、この映画こそミュージカルの元ネタになった記念すべきブルックスのデビュー作。まだ本人は出演していませんが卓越した脚本とテンポのよい演出で一気に魅せてくれます!数曲ミュージカルでも使われた歌も出てきます。マックスに『屋根の上のバイオリン弾き』でも主役を歌ったミュージカル怪優ドム・デルイズと後に名コメディアンになったジーン・ワイルダーの濃い共演が見もの。☆『ブレージングサドル』 西部劇をパロった小品。一応、西部劇の体裁を整えてはいるものの、ストーリーが進むにつれてその壊れ具合が楽しくなる一本。ただし、ブルックス映画にしては少し大人しいかも・・。しかし、ブルックスが壊れた市長で出てくる辺りからネジが緩んでくるので楽しくなります!☆『ヤングフランケンシュタイン』 ブルックスの喜劇王としての名声を確固たるものとした作品。ユニバーサルのB・カーロフ主演の古典的名作の『フランケンシュタイン』を徹底研究してパロった見事な作品です。ユニバーサル作品のオマージュとして、全編白黒で撮影。見ているとオリジナルの映画と見まごうほどによくシーンを研究しています。ブルックスは出ていませんが、役者達の熱演が楽しいです。特に従者イゴールを演じたマーティ・フェルドマンの顔は一度見たら忘れられないほど強烈!この作品と同じ頃『フレンチコネクション』でパワフルな刑事をやったジーン・ハックマンが怪物をかくまう優しい盲目の老人(しかし、この老人、盲目ゆえに危険な男!)を演じています。映画史に残る傑作。今DVDで非常に安価に見られます。ピーター・ボイル演じる怪物も可愛い!☆『サイレントムービー』 もう、ブルックスのバカさ加減が溢れた作品。だいいち、『サイレントムービー』を作ろうとしている映画人達が、出演者を求めてひと騒動を起こす姿を、本当にサイレントで撮ってしまうのですから・・。ですから、この映画はセリフなし・・・。いえ、実はひとつだけセリフあり・・。ネタバレですが、世界的なパントマイマー、マルセル・マルソーに国際電話で出演依頼。すると彼はパントマイムしながら電話を出る。話を聞いたマルソーは一言「Non!」そう、普段言葉を発しないマルソーただ一人、セリフありというバカバカしさ!こんな映画に、ポール・ニューマン、バート・レイノルズ、ライザ・ミネリといった当時の綺羅星のごときスター達が出ているのですから、ブルックスの力は相当なのでしょう。この作品でブルックスは主役に。相変わらずフェルドマンの強烈な個性が光ります。☆『新サイコ』 はっきり言ってブルックス作品の中では私のベスト1です。いや、出来のいいのはまだあるでしょうが・・、彼のバカさ加減が、もういたるところに充満!そして主役としてのブルックスの縦横無尽な暴れっぷりも最高!ヒッチコック映画へのオマージュとしてのこだわりっぷりも素晴らしく、この映画は腐るほど観ました。この映画にアカデミー賞監督バリー・レビンソンがちょい役で出ています。『サイコ』のシャワーシーンのパロディ場面です。これ、元ネタと見比べると、実によく研究されこだわっていると言うのがよく判ります。とにかくバカ!大傑作です。☆『珍説世界史PART1』 これもバカバカバカ・・・。ちょっと笑いのツボが濃すぎて日本人にはいまいち理解できないところもありそうなギャグですが、『2001年宇宙の旅』をパロった冒頭からしてお下劣!解説の仕様が無いほどバカっぽいです。ちなみにPART2の予告がエンドタイトル前に現れますが、製作された!という事実は聞きません。ナレーションで映画界の大御所、オーソン・ウェルズが参加しているのもバカさに箔をつけています・・。☆『メル・ブルックスの大脱走』 この作品は昔の映画『生きるべきか死ぬべきか』のリメイク。しかしブルックス版の方が良いともっぱらの評判。私も素晴らしい名作だと言い切りたいです。ポーランドの劇団座長が、祖国を守るため、ナチのスパイやゲシュタポの官僚、ついにはヒトラーにまで化けて大脱走をはかる、という、コメディとしても一級ながら笑わせながらはらはらドキドキさせる手法も見事すぎます。ユダヤ人であるブルックスがヒトラーに対して徹底して揶揄って見せたその極めつけです。この作品はブルックスは主演に徹し、監督業はしていません。そのためか、ブルックスの一人何役もが輝きます。ブルックスの最愛の妻であり、『卒業』『奇跡の人』などのアカデミー賞女優だったアン・バンクロフトとの夫婦共演が見もの。そして、名優達の芝居も素晴らしいです。一度は見ていただきたいお勧めです。 以上7本は是非押さえておいてソンはないブルックス作品です。他に今はちょっと手に入り辛い『12の椅子』やレンタルビデオ屋でも借りられそうですが、あまり大したことの無い『逆転人生』『キングオブタイツ』『レスリー・ニールセンのドラキュラ』といった作品があります。まぁ見て悪い作品ではありませんが、ブルックスらしさはほとんど感じられません・・。 またブルックスは出演者や声優としても活躍。『ロボッツ』や『アイスエイジ』での声優も担当しています。そういえばミュージカル映画版『プロデューサーズ』でも鳩のヒルダの声をしていたり・・。ちなみに、この映画のエンドタイトル終了後、ダンサーの美女に囲まれた御大が「終わりだよ!もう帰んな!!」と言うところあたり、老いてもブルックス!!と言う感じでした。(だからこの映画は最後まで観てね・・) 情報では『ヤングフランケンシュタイン』が今度はミュージカル化に向けて動いているとか!!これはまた楽しみ!!ブルックス様、相当なおじいさんになっていますが、(最愛の妻、アンは『プロデューサーズ』撮影時期に永眠)まだまだパワフル!楽しみです!!