「ヲコ幻想」をエンジンにして、サピエンス全史を読む8
これらとは別に、もう一つ昔から言われているのがいるのが、二足歩行はもともと人類が食料を運ぶのを容易にするために進化したのだが、それによって男性は、今日の狩猟採集民の男性がしているように、女性に食料を持ち帰れるようになったのではないか、という説だ。実際、この説では決まって次のように推理が続く。つまり食料と引き換えに女性との*行為を手に入れられる男性を有利にするために、二足歩行が進化したというのである。刺激的な説に思えるかもしれないーーとくに、人間の女性はチンパンジーのメスと違って排卵期に明らかなサインを示さないという事実に照らせばーーが、この仮説はいくつかの理由で疑わしい。そもそも、人間の女性はしばしば男性を食わせてやることがある。加えて、初期の人類の男性が女性よりどれほど大柄だったかはまだわかっていないが、のちの人類の種を見ると、男性は女性より1.5倍ほど身体が大きい。こうした男女の体格差は、女性への*的アクセス権をめぐる男性どうしの激しい競争に関連づけられるものであり、したがって男性が女性に協力と食料分配を通じて求愛したとは考えにくい。 (中略)しかし、その後の人類の進化にとって、二足歩行がなぜそれほど大きな意味を持つことになったのか。どうしてこれが、そのような根本的に重要な適応になったのだろうか。『人体600万年史』ダニエル・E・リバーマン 塩原通緒訳 早川書房 上P73,74 長くなってしまったが、二足歩行が「ヲコ幻想」に関係していると思われる文書なので引用してみた。 しかし、否定されている。でもその根拠は脆弱である。[女性はしばしば男性を食わせてやることがある〕いつの時代のことをいっているのだろうか、600万年のなかで女性が男性を食わせる(男性はヒモ?)ことがしばしばあったとは考えづらい。また、今日の狩猟採集民でなくとも、勤め人でも女性に対する*的アクセス権のために、せっせっとプレゼントを運ぶのである。また、男性が女性より体が大きいのは男どうしで争うためでなく、女性を襲うためであったと考えられる。 わたしの立場をもう一度整理しておこう。ヒトが直立二足歩行になった。そのことは偶然のことである。このとき、メスのヲコがつねに見えるようになって、大混乱に陥った。このころはまだ類人猿として、チンパンジーやボノボと別の種であったわけではない。メス(のちの女性)はそれを見せる隠すということで、なんとか二足歩行のままで生き延びた。ここで、チンパンジーやボノボと種として分かれた。やがて、それを使ってオス(のちの男性)をコントロールするようになった。これをわたしは「ヲコ幻想」と名づける。 この「ヲコ幻想」が想像力を生み、サピエンス全史のいう、認知革命につながっていくのである。こんなくだらんことが、600万年史のいう、それほど大きな意味を持つことと、根本的に重要な適応になったのである。あまりにもくだらないので、ヒトはいろんな理由をつけて、そのことを回避したがるのである。