逆境の中で生まれた、心から満足出来るアメリカ料理:Soul food
Big mama(ビッグママ)やMama(ママ)と誰もが親しみを込めて呼ぶ肝っ玉母ちゃんのような存在感のある方と、店員(私)&お客さん(Mama)の関係で知り合ったのだが、『Mamaと呼びなさい。』と言われてからというもの、私はずっとこの方を『Mama』と呼んでいた。思えば、あれは私が家族を離れてアメリカにいるということを話した日であったから、きっと気を遣って『Mamaと呼びなさい。』と言ってくれたのだと思う。何だかとても温かい方であった。そのMamaと話す度に、映画『Soul food(邦題:ソウルフード)』に出てくるMamaを何気に思い出したものだが、話を聞いていると、映画に出てくるMamaと同じく料理も得意らしかった。店で仕事の合間に話をする時間があると、Mamaは美味しいフライドチキンを作るコツや野菜の正しい保存方法、また素材を無駄にしない使い方などを教えてくれ、私にとってはまさに「目からウロコ」の知らなかったことばかりだったので絶えず『へー!』や『なるほど!』を繰り返すばかりであった。偏見と言われても仕方のないことなのだが、彼女と出会い、そしてあの映画を観てからというもの、私は皆から親しみを込めてMamaと呼ばれている人はきっと料理も上手に違いないとすっかり思い込んでしまっている。~ソウルフードの歴史~そもそもソウルフードとは、『アメリカ南部で誕生した、アフリカ系アメリカ人の伝統料理』のことを指すのだが、Mamaがソウルフードに生かされている「素材を無駄にしない使い方」は奴隷時代の知恵だ、と教えてくれた。ここでいう奴隷時代というのは、アフリカ人がアフリカ大陸からアメリカ大陸に連れてこられた1400年代頃から、奴隷解放が宣言される1865年までの約400年以上の時代を示すのだそうだ。その間奴隷として連れて来られた人々は、人の「所有物」となり、こきつかわれ、ご飯も残り物や食材の切れ端などを主に与えられたという。代表的なものは、turnip greens(ターニップ グリーンズ:カブラナ)、 collards(コラーズ/カラーズ)、dandelion(ダンデライオン:たんぽぽ)、beets(ビーツ:かえんさい)、ham hock(ハム ホック:豚足関節の部分)、hog jowl(ホッグ ジャウル:豚のほほ肉)、 chitterlings(チタリングス:豚の小腸)、そして、豚の唇や尻尾などがあり、また、Corn meal(コーンミール:ひき割りとうもろこし)やMolasses(モラシズ:砂糖製造の過程で出る残り蜜)なども配給されたそうだが、奴隷だった者はとにかく主(あるじ)が食べないものを食材にする以外に術は無く、それらを使っていかに美味しくご飯を作るか、そしていかに作ったら仲間全員が腹いっぱいになるかなどと知恵を絞ったという。その努力の賜物がソウルフードの原点となったそうだ。やがて、アフリカからやってきたokra(オクラ)などの食材もアメリカの大地に植えられるようになり、奴隷が調理人として雇われ始めた頃から、使う材料も増えたという。そして、さらにアメリカ南部地域独自の料理スタイルにも影響されながら、ソウルフードはたちまちアメリカの代表的料理の一つにまでなっていった。ソウルフードの代表的な料理はというと、collard greens(コラードグリーンズ/カラードグリーンズ)、hush puppies(ハッシュパピーズ)、southern fried chicken(南部スタイル フライドチキン)、red beans and rice(レッドビーンズ&ライス)、corn bread(コーンブレッド)、macaroni and cheese(マカロニ&チーズ)、gumbo(ガンボ)、sweet potato pie(スウィートポテトパイ)などなど。残り物や食材の切れ端、そして調理過程に出た残り物を、すさまじい歴史の中でこんなに美味しいご馳走に変身させた彼らに脱帽したい気持ちで一杯である、、、。後記:アルク 英辞郎on the web(http://www.alc.co.jp)によれば、ソウルフードは「心から満足できるもの」という意味もあるのだそうだ。奴隷制度が廃止されてからは、アメリカ南部地域から色々な地域へ移っていった者も多かったそうだが、アメリカで育てたおふくろ(または親父)の味は移っていた土地でも作り続けたという。心から満足出来るもの、、、実にソウルフードにふさわしい言葉である。参考HP:*Foxhome.com : A History of Soul Foodhttp://www.foxhome.com/soulfood/htmls/soulfood.html参考資料:*野村達郎 著『「民族」で読むアメリカ』講談社現代新書