文楽初春公演第2部その2 愚かな男と別れられない女
舞台天井の正月飾り冥途の飛脚(めいどのひきゃく)淡路町の段 大阪の亀屋という飛脚屋は養子の忠兵衛が主人として商売をしている。 その留守中、送ったはずの金300両がつかないと侍が文句を言ってくる。次には、忠兵衛の知り合い八右衛門からも、10日前につくはずの50両が届けられないとの問い合わせがある。 手代の対応で後日必ず届けると帰ってもらうが、忠兵衛の養母妙閑は「ここ最近、クレームがやたら増えている。」と気にしている。 それもそのはず、忠兵衛は遊女梅川に夢中になって、ほとんど商売に身を入れなくなっていたからだ。一度は意見をしなければと養母は思っている。 忠兵衛がこっそり家に戻ってきたところを通りかかった八右衛門に見つかり「50両どうなっているのか。」と厳しく問われる。忠兵衛は泣きながら頭を下げ「実はなじみの梅川を気に入った田舎大尽と張り合うため、こちらで梅川を身請けすると言いきって八右衛門の50両に手をつけて、置き屋に前金としておいてきてしまった。怒りはもっともだが、溺れる犬を助けると思って、大目に見てくれ。」 あまりにみじめでかわいそうなので、とりあえずは貸しておこうと話がつきかけた時に、養母が姿を見せて、八右衛門さんにお金を早く返さねばと迫るが、かえすお金はない。切羽詰まってありあわせの小さな水差しを紙で包んで金を返した形を装う。 忠兵衛は遅れて届いた300両を侍の家に届けてくると家を出るが、ぼんやり歩いていると通り過ごし、梅川のいる遊女屋のほうにふらふらと行ってしまう。 封印切りの段 遊女屋では梅川が、忠兵衛を待っている。そこへ八右衛門がやってきて、忠兵衛が金に困っていると飛脚屋での様子を面白おかしく話した上、「この調子では金に詰まって、巾着切や泥棒でもしかねない。トラブルの種になる男だから絶対近づけてはならない。」と遊女屋の主人に声をかけている。(八右衛門は意地悪でいっているのではなくて、梅川や置屋の方が愛想をつかして、上にあげないようにしてくれれば、忠兵衛もあきらめるかと思ってのことである。)それを聞いた忠兵衛は、かっとなって入り込み、おれには金のあてがあると啖呵を切って、預かった300両の封を切ってしまう。八右衛門 が「それはどこか届けるべき金ではないのか。」「いやこれは、大阪へ養子に来るときに、実父がなにかのときに使えと持たしてくれた金だ。」(ここで、くやしい金がないと忠兵衛があきらめられたならよかったのだが、ついつい意地を張ってしまった。はっきり言って勢いだけ。会社の金を使い込んでギャンブルや投資に走る人の心境か) ここで一気に、梅川の身代金も支払い、たまったつけも支払いということで、梅川を連れて帰るから、身請けの証文を書いてくれと置屋の主人に頼む。 一同はめでたしめでたしで、座をはずし、二人になったところで忠兵衛は「実はあれは、余所から預かった金だ。さっさと証文をもらったら、二人で逃げよう。」と事実をうちあける。(梅川としてはびっくりだが、十両盗めば首が飛ぶこの時代に、梅川のために命をはって金をだした男が、哀れと言えば哀れ、ここで見捨てるわけにはいかないと)道行合いあいかご(舞踊劇)捕まるまで逃げて逃げのびよう、しかしせめて親へそれとない別れをしておきたい」という忠兵衛の気持ちで、奈良の実父のうちまで、世間をしのびながら 向かうのだった。