文楽 傾城恋飛脚
傾城恋飛脚新口村の段新口村の豪農の息子忠兵衛は飛脚屋に養子に入ったが、遊女梅川にいれあげ、梅川に横恋慕する男にあおられて、余所に届ける金300両の封を切ってしまう。10両盗めば首が飛ぶ時代、これは大変ことをしてしまったと、忠兵衛は梅川を連れて、在所まで逃げてくる。しかし、すでに忠兵衛が逃げてくるであろうと奉行所の手下が、見張っている。そこで、忠兵衛たちは親の家来筋にあたる家を訪ねたが、家来は留守で女房がいるのみ、事情を知らぬ女房が、忠兵衛という人のことでこちらも大騒ぎになっているとぺらぺらとしゃべり、亭主を呼んでくると外に出ていく。家の外を二人で覗いていると、忠兵衛の父親が前を通りかかり、雪に足をとられて転ぶ。思わず走り出た梅川が介抱するが、その様子からこれが梅川という忠兵衛の相手だと悟る。しかし、知ってしまえばお上に訴えでなければならない(養子先の親が忠兵衛がとらえられるまで身代りに入牢している。)そこで、お互いがなにかにかこつけて思いのたけをそれとなく話ある。色々知恵を絞り、親が目隠しをしたところへ忠兵衛が現れ、どこのどなたか知らない人だがと話をする。最後に介抱してくれた礼だとお金を与え、二人は追っての眼を逃れて逃げていく。忠兵衛は、ひたすら梅川をこうしたことに巻き込んで、父親、養親に迷惑をかけたことで、ともかく申し訳ない思いが一杯。梅川はことここに及んでは、二人で死ぬしかないと覚悟を決めた潔さを持っている。ただ、嫁として親にあいさつしておきたかった、自分のせいで息子が悪くなってと思われてもつらいという気分はあったと思う。父親は、息子を思う気持ちと世間への気持ちで非常に葛藤している。勘当したけれど、もし息子が立派になってあんなよい子を勘当してと笑われるほうがよほどまし。勘当してよかったなといわれるほうが、なおつらいという言葉に気持ちが表れている。