テーマ:政治について(20234)
カテゴリ:よもやま
《「正義という病》=メディアの惨状
ジャーナリストの青木理さんと連名で『月刊現代』12月号にレポートを発表した。題して「共同通信がもみ消した安倍スキャンダル」。 安倍首相の地元秘書が絡んだ不祥事を暴くはずだった記事が、首相の鼻息をうかがう共同通信上層部の指示で配信を差し止められたという内容である。青木さんも私も、かつて共同通信の記者だったので、「差し止め」に関わった幹部たちの人柄や能力をよく知っている。彼らはいずれも有能で良質な記者だった。 だからこんなレポートを書くのは忍びないのだが、事実は事実である。権力との対決姿勢をなくした報道機関は自滅するしかない。 取材の過程でひとつだけ嬉しい事実にぶつかった。それは社会部の記者たちがそろって記事差し止めに激しく抗議したことだ。どうかその怒りを失わないでほしい。記者であることの誇りをかけて闘ってほしい。 『月刊現代』の原稿の処理が終わって一息つくまもなく、札幌に飛んだ。宮崎学さんや大谷昭宏さんらが北海道警裏金問題のシンポジウム「北海道はこれでいいのか! 『道政・道警・裏金報道』を考える集い」を開くと聞いたからである。パネリストとして呼ばれたわけでもないのだが、何だか面白そうだったので取材を口実に出かけてしまった。 ご存じと思うが、地元の北海道新聞は道警の裏金作りを暴いて新聞協会賞など各賞を総なめにした。だがその後、道警側の反攻にあって道新上層部が弱腰になり、いま裏金取材班の記者たちは窮地に陥っている。そこで彼らを励まし、道民にジャーナリズムの危機を訴えようと企画された集会だった 。 道新上層部が弱腰になった理由は、元道警釧路方面本部長で「裏金」告発者の原田宏二さんが月刊誌『世界』6月号に書いている。それによれば、道警の道新に対する嫌がらせは執拗だった。事件・事故の発表では関係者の年齢や細かい住所を省略し、道新の記者にだけは補足取材に答えない。道新記者が会見場所にいるのを見つけると「出ていってくれ」と退席を求める。道警本部広報課に記者が顔を出すと「何しに来たんだ」と露骨に言う。その結果、道新には情報が入らなくなり、再三「特オチ」させられるようになった。 決定的だったのは、昨年10月、道新東京支社の元広告部長が営業広告費約500万円を私的に流用していた事実が明るみに出たことだ。道新上層部はこの元広告部長を依願退職にして退職金2000万円を支払っていた。本来支払うべきでない退職金を払ったことで、上層部による特別背任の疑いも浮上した。こうした不手際を道警が見逃すはずはない。道警は道新上層部の事情聴取や役員室などの家宅捜索をちらつかせながら、道新側に圧力をかけていったらしい。 もし道新が道警に屈服してしまえば、もう新聞は警察と闘えなくなる。そんな危機感から、宮崎さん、大谷さんのほか、キャスターの田原総一朗さんや政治学者の山口二郎さん、衆院議員の鈴木宗男さんらが会場に駆けつけた。私もパネリストとして飛び入り参加させてもらった。会場を埋めた約500人の聴衆も熱心に耳を傾けてくれて、シンポジウムは大盛況だった。新聞の奮闘を願う、みんなの声は道新上層部に届いただろうか。 昨年のNHK番組改変問題といい、今回の共同通信のケースといい、メディアの実情は惨憺たるものだ。それでも希望は完全に失われたわけではない。シンポジウムには道新同様、警察の裏金問題を追及している高知新聞の編集局次長ら4人も参加した。彼らは社内で集めた120人分のカンパを携えて来ていた。そのカンパには「道新、頑張れ。記者たちよ、負けるな」という熱いメッセージが込められていたことは言うまでもない。 権力がメディアを支配下に置いて情報をコントロールしようとする動きはこれからますます強まるだろう。それをはねかえすことができるかどうか、正念場はこれからだ。 2006.11.10 魚住取材ノートより転載 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.12.05 09:02:43
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