なつかしいお名前を聞いた。
庭の落ち柿の始末をしていると隣家の夫人が呼びかけてきた。「山田さん、この方をご存知ですかしら?」と、プリントした漫画と二枚の絵葉書を見せた。プリントの漫画にはサインも印刷されていた。
「ああ、漫画家の山根青鬼さんですね。もちろん存じております。私が子供の頃からご活躍でしたから、少年雑誌で読んでいました。山根赤鬼さんという双子のご兄弟で、共に漫画家です」
「田河水泡さんのお弟子さんだったとか・・・」
「そうです。《のらくろ》の田河水泡さんです。昭和25,6年頃から少年雑誌が創刊されはじめました。戦後の出版活動がいよいよ子供向けの書籍や雑誌にもおよびはじめ、『おもしろブック』とか『冒険王』などという少年雑誌が刊行されるようになりました。山根青鬼赤鬼兄弟は昭和30年前後からそのような雑誌に執筆されていたと記憶しています」
「山田さんは、やっぱりご存知」
「その山根青鬼さんが、なにか・・・?」
山根青鬼さんが、隣家の夫人のお友達と卓球をされていられたのだという。とてもお元気で、ときどき卓球をしている人たちをじっと観察して、さらさらっとスケッチされていられた、と。
「そうですか。大先生はお元気ですか。なつかしいお名前をお聞きしました」