深海3800mに眠るタイタニック号残骸を見るツアーの潜水艇は、深海圧力に耐えられず圧壊(水圧で潰されて破壊)し、操縦士一人と乗客4人は傷ましい死を遂げたとみられている。タイタニックの舳先からおよそ490m離れた海底で潜水艇のコーン状の後部(米沿岸警備隊スポークスマンの英語ではそのように言っていた)の残骸が発見された(日本の新聞報道では破片の一部と書いている)。また潜水艇と母船との連絡が途絶えたほぼ同時刻に、米海軍が圧壊音を検知してい、捜索チームに連絡していたという。ツアー運営会社も乗員5人への弔意を発表した。
1997年に映画『タイタニック』を制作したジェームズ・キャメロン監督は、タイタニック号沈没事故とこのツアー潜水艇タイタンの事故との共通点を次のように指摘している。
タイタニック号は航海中の前方に氷山があると何度も警告されていたにも関わらず、船長は月明かりのない暗い海を全速力で氷原に突っ込んで行った。
(一方、タイタニック残骸見学ツアーの)認証されていない潜水艇に関する警告は聞き入れられなかった(*)。(CNNに拠る)
(*運営会社の従業員が潜水艇は深海4,000mの水圧に耐えられないことを会社に警告していた。この従業員は解雇された。)
この二つの傷ましい事故は、所も同じ場所で起こった。そしてなんという因縁であろうか、潜水艇の操縦士の妻ウェンディー・ラッシュさんは、タイタニック号沈没で亡くなった老夫妻の子孫(玄孫)であるという。老夫妻は当時の米国小売業界の名士で米百貨店「メイシーズ」の共同オーナーのイジドー & アイダ・ストラウス夫妻。キャメロン監督『タイタニック』で、救命ボートに乗らずにベッドで抱き合って死を選んだ老夫妻のモデルなのだそうだ。英国公文書館のタイタニック関係文書によれば、実際のストラウス夫妻は、救命ボートに乗るように促されたが老人が乗るより若い人が乗った方が良いと言った。夫妻はデッキで手を固く握りあっていた姿が目撃されていた。・・・この老夫妻の玄孫(ひ孫さんの娘)が、タイタニック残骸見学ツアー潜水艇タイタンの操縦士の妻だという。
ところで私は、キャメロン監督の上述の指摘・・・タイタニック号と潜水艇との警告無視の結果の事故という共通点に、もう一件、知床半島沖観光船の沈没事故も全く同じ警告無視だったと付け加える。
2022年4月23日に起こったこの事故は、乗客乗員26名が亡くなった。そして現在もなお6名の御遺体は行方不明である。操舵していた亡くなった豊田船長は、事故のおよそ一ヶ月前に友人に当てたメッセージに、「ブラック企業で右往左往」と書いていたという。無理な出航命令や過酷な労働、さらに船の修理を頼んでも無視された、と。
これらの事件に現れているのは、経営者/指揮官あるいは自称他称の指導者の「傲慢」であり、誤った自信により「聞く耳を持たない」ことだろう。こういう人格は、破局がおとずれるまで突き進む傾向にある。その例は、上記三者に限らず、歴史にも、現代の我々の社会に、そして世界中に、擧げるにことかかない。
このたびの潜水艇事故は、限定的な傷ましい事故ではなく、広く大きな社会に共通な問題を例示していると、私は思ったのである。