伊・仏文学者の大久保昭男氏が亡くなられた。享年96。
大久保氏はイタリアの文豪アルベルト・モラヴィアの翻訳で知られていられた。
私が学生時代にモラヴィアを知ったのも、大久保昭男(てるお、あきお)氏の翻訳によってだった。
私はイタリア大使館の仲介で、来日したモラヴィア氏に会いもした。その経緯については随分前にこのブログに書いた。私はモラヴィア氏の初めての長編小説「無関心な人々」の翻訳本を携えて行った。その本の扉にモラヴィア氏は署名してくださった。帰りに、私を送ってくれたイタリア大使館員が、「よかったですね、署名がもらえて」と日本語で言った。私は、「実は・・・」と、署名のある本の扉を開いてご覧にいれた。「ああ・・・!」
日本語の本は左開きである。洋書は右開きだ。私はモラヴィア氏に礼をもって本を左開きで差し出した。しかしモラヴィア氏は本をくるりと回転させて右開き本のようにして署名なさったのである。礼儀知らずな学生だと思われたかもしれない。・・・本を見た大使館員はすぐに察して、「ああ・・・!」と言ったのだった。
「仮想舞踏会」「ローマの女」「孤独な青年」「軽蔑」等々、大久保昭男氏訳のアルベルト・モラヴィアを私はたくさん読んだ。
大久保昭男氏を追悼いたします。