西行全集をもう一度勉強し直そうと思いたち、書棚から取り出した。その予習を兼ねて西行の人物像を心に描きやすくするために、これも再読になるが辻邦生氏の小説『西行花伝』を三日前から読み始めた。
西行、またの名を円位、本名を佐藤義清(さとうのりきよ)、歌人として吟行に半生を過ごしたが、それ以前は鳥羽院を警護する北面の武者。鳥羽院に寵愛され兵衛尉であった。さらに蹴鞠の名手、弓の名手、騎馬の名手、流鏑馬の名手として貴人の宴を盛り上げていた。また若くして紀の国の所領経営に怠りなかった。各地を吟行の途上、崇徳院が非業の死を遂げた讃岐を訪ねたことは、上田秋成が『白峰』に小説化している。「雨月物語」のなかの一編『白峰』は私の好きないわば怪異小説である。・・・このような人物が、歌をつくりはじめた初学のころから当時の多くの高名な歌人(みな貴族であるが)にその詩想豊かな才を愛でられ、なおも出家して俗界を離れて歌を追求し、歌三昧に没入していった。
辻邦生氏は『西行花伝』において、西行と同時代の先達、歌の本位と尊敬されていた藤原俊成卿の雅と西行の歌の心とは本質的に異なるとみている。辻邦生氏の探求は西行の心を解き明かそうというものである。
・・・私はその西行の全作品をもう一度読み直してみようというわけである。なにかを理解することができるかどうか・・・
辻邦生『西行花伝』新潮社刊 1995年
『西行全集』久保田淳編
日本古典文学会・貴重本刊行会 昭和57年(1982)