アンダー・ザ・プラネット
1998年に公開されたブルース・ウィリス主演映画「アルマゲドン」は地球への衝突コースを取る小惑星の内部に核爆弾を設置して内側から破壊、コースを外らせようとする話でしたね。これの地球版が、2003年に公開の映画「ザ・コア」。地球の地殻変動で地上が大混乱になって、その原因が25万年に一度起こるとされる 地球の核(コア) の回転が停止して、地球の磁場が不安定になったからと解明した科学者たち。コアを再始動すべく停止してしまったコアを包んでいる液状の外核部分まで潜行、そこで核爆発を起こして、その衝撃でコアの再回転を促す作戦を立案。世界中から集められた掘削のスペシャリストが、特殊合金で出来た特殊車両「バージル」で地下3,200km まで降下すると云うお話し。この「ザ・コア」と同じような作品が2006年公開の映画「アンダー・ザ・プラネット」。こっちの作品も環太平洋火山帯の異常な火山活動が発生して、科学者はマントル層の異変を察知。このままだと地球は氷河期に突入してしまう!そこで地底掘削マシンで地下40km のマントル層に突入。核爆発の高熱でプレートの亀裂を溶接しようとするお話し。アイスランドですごい噴火が起こってますが、その非ぢゃない規模。「アンダー・ザ・プラネット」予告編 これらの映画はあくまでSF、それも小惑星まで飛行してドリルで掘削したり、地球の核まで掘削したりと現実的でないSFの範疇ですね。地球の核は、ゆで卵で例えると卵の黄身にあたる部分ですが、これは中心核(コア)と呼ばれて、直径は約3,470km 、マントルと核の境界面は地表から深さ2,900km にあります。核はさらに地球の中心より半径約1,390km を境にして、内核と外核の2つの部分に分けられます。ゆで卵の殻や白身に相当する部分が岩石質なのに対して、核は鉄とニッケルが主で、外核は溶けた状態、それに対して内核は固体状態なんですね。内核が個体なのは極度の圧力で、金属原子が固まるためです。コンパスが南北を示すように地球には地場がありますが、これは外核で融けた導電性の金属鉄が対流していることで、核そのものが巨大な発電機となって、発電機の作用によって磁界が生じてるためです。核は地球の他の部分と同様に、北極から見ると反時計回りに回転すると考えられています。ところが最近の研究で核の回転は2009年頃に停止し、その後逆方向に回転を始めたらしい。この逆転の周期は約20年~30年ごとに起こってるらしいです。なぜ逆転を繰り返すのか? 今のところ分かっていません。次の逆転は2040年ごろとか。もし映画「ザ・コア」や「アンダー・ザ・プラネット」のように地球を掘り進めることができたら、どんなでしょう?地球の直径は約12,756km なので、掘削には巨大なドリルと数十年の作業が必要になります。映画みたいに数時間で核に到達なんて、いくらSFでも乱暴すぎる話なんですね。現在最も深いボーリング坑は、ロシアの「コラ半島超深度掘削坑」で、深さは12.262km です。科学者たちがこの深さに到達するまでに20年近くかかってます。コラ半島超深度掘削坑の底部の圧力は海面の4,000倍に達します。この場所は2008年に放棄されて、今では観光地になってます。地殻とマントルとの境界を「モホロビチッチ不連続面」と呼びますが、この境界まで掘削を行おうという「モホール計画」がアメリカで行われたことがあります。この計画が実施されたのが60年代だったので、当時、宇宙開発競争でソ連に遅れを取ったアメリカが地球科学で挽回しようというと云う動機があったのですね。この計画では、陸地ではなく海底が掘削されました。陸より海底下のほうが地殻が薄く、掘るべき深さが小さくて済むからです。1961年に実行された第1段階では、メキシコのグアダルーペ島沖に5つの穴が掘削され、そのうち最深のものは海面下3,500m の大陸棚を183m までまで掘り下げました。コアサンプルの最下部13m は玄武岩からなる中新世堆積物で、大変貴重なサンプル取得に成功しました。こうして計画の第1段階は、地球のマントルまでボーリングを行なうことが科学的にも技術的にも可能であることを証明したのですが、第2段階は運営がまずかったのと、予算超過のため1966年に頓挫してしまいました。地球を掘削するために開けられた穴は、掘削液を穴に継続的にポンプで注入しなければ陥没してしまいます。深海掘削や油田掘削では、掘削液はバリウムなどの重鉱物を含む泥の混合物です。流体の重さによって穴内の圧力と周囲の岩の圧力のバランスが取れ、穴の崩壊が防止されるのですね。掘削液にはさらに2つの役割があります。1つはドリルビットを洗浄して砂や砂利が機械に付着するのを防ぎ、もう1つは温度を下げるのに役立つのですね。マントル内の温度は約1,400℃と非常に高いです。この温度では、ステンレス鋼は溶けてしまうため、ドリルはチタンのような高価な特殊合金で作る必要があります。マントルを通過すると、ドリルは約2,896km で地球の核に到達します。述べたように外核は液体の鉄とニッケルでできており、温度は4,000℃~5,000℃にもなりますから、この合金に穴を開けるのは特に困難です。現実的にはムリです。燃えるような外核は液体の中を掘削するようなもので、冷水がポンプで送り込まれない限りドリルが溶けてしまう可能性が高いからです。さらに5,000km 掘り進むと内核に到達しますが、言葉では表せないほどの圧力にさらされることになります。その圧力は大気圧の3億5,000万倍になるそうです。核の中心では、重力は軌道上にいるのと同じになり、ドリルは事実上無重力になります。だって引力がどの方向でも等しいのですから。と、云うことで宇宙旅行するより困難なんですな、地球のコアにドリルで到達するなんて。