カテゴリ:緑のおっさん
図書館からの帰り、私は小さなおっさんのことばかり考えていた。 ひょっとしてあのおっさんは、リモコンか何かで動くかなり精巧な人形で、声は誰かがマイクを使っておっさんの体内にあるスピーカーから出していたとか。もしかしたら他の人にも見えていたのに、みんな見えていないふりをしていたのかも。でも、何のために? あ、私を騙すドッキリ企画? 麻美あたりが考えそうなことじゃない? 人形は美術部の優月ちゃんが作って、ロボットオタクの神永君があれこれ仕込んで。緑色のジャージは洋服作りが趣味の美涼が担当。もしそれが本当なら、あの人形、かなりの出来栄えだったよ。上出来。 そんなことをあれこれ考えていたら、何だかちょっと楽しくなってきた。 でもこの空想は、すぐに打ち砕かれた。 「ただいまー」 ママはパートからまだ帰っていないのか、玄関には鍵がかかっていた。 鍵を開けて中に入ると、閉めきった家の中は蒸し風呂状態だった。 「うー、暑っ」 自分の部屋に入り、すぐに窓を開けようとして持っていた鞄をポンとベッドに投げた、その時だった。 「痛ぁ、何さらすねん、このボケェー」 鞄が喋った・・・訳ではない。鞄の中から怒鳴り声がした。聞き覚えのある声、さっきのおっさんだ。 「全く、近頃のガキは何考えとんねん」 おっさんはぷりぷり怒っているようだった。 「いや、あ、あの、まさか鞄の中になんて・・・」 「何や、お前、言い訳でもする気か。張り倒したろかっ。それより早くここから出さんかいっ。わたたたた、危ないのぉっ、ワシを殺す気かっ」 倒れた鞄を起こした拍子に、鞄の中身の何かがおっさんを直撃したらしい。鞄を開けると、おっさんは真っ赤な顔をして出てきた。 「乱暴なやっちゃなぁ。ちと丁寧に扱えやっ。物はもっと大事にせえ」 どう見ても上手に出来た人形ではない。幻覚とか錯覚でもないと思う。 今、確かにここに居る。私はおっさんを凝視した。 「何やその目は。そんなにワシが怪しいか」 「怪しいっていうか、何者? なんで私の鞄の中にいたの?」 おっさんは頭をぽりぽり掻きながら、面倒くさそうな顔で言った。 「何者って言われてもなー、こういうモンや。見ての通りや。で、なんでお前の鞄の中に居たかっちゅうと、バスん中でな、気持ち良うなってきてうとうとしてきたからや」 「何でうとうとしてきたら、鞄に入るの?」 「分からんやっちゃなぁ。あのな、あのまま寝てもうたら、お前、自分がバス降りるときにどうやってワシを起こすんや。他の奴にはワシの姿は見えんのやから、ここで降りるよとか言うて声かけるわけいかんやろ。しかも誰かがワシの寝ているところへドカンと座ったらどうするんや。ワシ、ペチャンコかいな。はい、寝たままお陀仏ぅーちゅうわけにはいかんやろが。だからお前の鞄に入ったちゅう訳や。これならお前がどこでバスを降りようと、ワシは安全に寝たまま移動できるやろ? 我ながら賢い選択や」 おっさんはドヤ顔で、ふふんっと鼻を鳴らした。 (続く)
※この作品はフィクションです。登場人物や団体等、実在するものとは一切関係はありません。 更新情報は 楽天プロフィール・ぽあんかれ Amebaなう・ぽあんかれ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ご訪問、ありがとうございました^^ 今回はブログやtwitterで交流させていただいている島田妙子さんの本を紹介します。
島田さんは子供の頃、継母と実父から虐待を受けていました。 辛い日々を過ごしてきたにも関わらず、島田さんは今、継母も実父も恨まず、 虐待をしてしまう大人はその人自身も苦しみを抱えている 島田さんの優しさと明るさとユーモアと逞しさに満ちた文章が 島田妙子さんのブログはこちら くるくるミラクル 幸せくるくる
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