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テーマ:洋楽(3394)
スライ・ストーンの来日もそのひとつだ。 8月31日(日)の東京国際フォーラム、9月2日(火)のブルーノート東京で公演が行われる(後者の方は自由席で15750円。高っ!)。 自分の周りでは、The Who(こちらも初の単独来日)の話題ばかり盛り上がっているが、スライの方もそれに負けないインパクトがあると思うんだけどね。 だって、あのスライですよスライ。文字通りの"生きた伝説"の"初めての来日"ですぜ、ダンナ。 スライ・ストーンことシルヴェスター・スチュアートは、いうまでもなくスライ&ザ・ファミリー・ストーンのリーダーである。 ジェームス・ブラウンと並ぶファンクの創始者であり、60年代末から'71年頃にかけては商業面でも圧倒的な成功をおさめた男だ。 そして、急激な成功ゆえの重圧に耐えきれず薬物におぼれ、あっという間に転落していったというのも音楽ファンの間ではよく知られているハナシだろう。 Everyday People」、「Hot Fun In The Summertime」、「Family Affair」(過去ログ参照)などの曲を次々とヒットさせる一方で、スライはグループ間の軋轢や暗殺などに怯えていた。 その救いをドラッグに求め、バンド・メンバーに銃を向ける、コンサートをすっぽかすなどの寄行を重ねていく。 その結果、彼は孤独になり、最終的にはファンからもプロモーターからも見捨てられた。 スライのマネージャーだったカプラリック氏は、彼のことを「かわいそうなシルヴェスター青年」と言った。 スライは、70年代後半以後もそれなりの活動を行いはしたものの、かつてのような勢いを取り戻すことはできなかった。 その栄光と挫折は、ある意味、絵にかいたようなスター人生だったとも言える。 自分は80年代後半から洋楽を聴きはじめた世代だが、音楽雑誌を見てもスライについては"過去の名盤"が紹介されているだけで、"現在のスライ"に関する情報はほとんどなかった(ネット時代になってからは、さすがに変わったが)。 ゆえに、その伝説やカリスマ性がアタマの中でふくらむだけで、ほとんど歴史上の人物みたいに思えた、というのが正直なトコロかもしれない。 少なくとも、"復活"などというのはありえないだろうと、ほぼ決めつけていた。 スライは、自分との闘いに敗れて墜ちていった者なのだから。 スライのファンクにはアッパー系とダウナー系がある。 僕が好きなのは後者の方だ。理由があるとすれば、それは自分がダウナーな性格だからだろう(笑 一般にスライの最高傑作といわれる『There's a Riot Goin' On(暴動)』('71年)もダウナー系の名盤だ。 そのアルバムは音質はこもってるし、内容も言われるほどスゴイとは思えない。 だが、あの淡々とした雰囲気と沈みこむような演奏が、僕はとても好きだ。 スライのダウナー系名盤にはもうひとつある。 '73年に発表された『Fresh』(上ジャケット)だ。 前作『There's a Riot Goin' On』とこのアルバムには二年のインターバルがある。 その間、スライは薬物治療を行っていたらしい。 そして発表されたこのアルバムは、"& The Family Stone"という名義こそ同じだが、バンドのメンバーは大幅に入れ替わっていた。 つまり、スライと新しいファミリーによる作品集である。 その中には、ラスティ・アレンとアンディ・ニューマークがいた。 特にアンディは、「黒人よりも黒人っぽい」と言われるほどのグルーヴ感を持つ白人ドラマーで、のちにジョン・レノン、ジョージ・ハリスン、デヴィッド・ボウイ、スティングほか名だたるミュージシャンのアルバムに参加している。 ラスティとアンディの参加は、このアルバムのひとつの鍵といっていいかもしれない。 「In Time」はアルバムの冒頭をかざる曲だ。 チープなリズム・ボックスに絡むペラペラな音色のギター、ラスティ&アンディのクールで粘っこいファンク・ビートがなんとも印象的。 このポリリズム的音作りは、基本的には『There's a Riot Goin' On』の延長線上にある作風といえるだろう。 だが、ひたすらダウナーだった前作にくらべて、ここには微妙な"ポジティヴさ"が感じられる。 この曲には「コークをやめてペプシに替えた」という一節が出てくる。 この場合のコークというのは薬物(コカイン)のこと。 「In Time」は、彼が薬物中毒から立ち直ったことを歌ったものだ。 その中にはこんなフレーズも出てくる。 "時がたてば忘れられる この俺を見ろ 俺の目にうつるのは午後の明るい陽差しだけ" スライの声は力強く、彼の弾くオルガンも熱っぽい。 メロディは何気にポップだ。トボけたようなサックスもなかなかのクセモノ。 無愛想な女性コーラス、歯切れよいハイハットの音色もやたらとカッコよく響く。 ビートはゆったりしているが、演奏自体は鋭い。 地味ながら聴くほどに味の出るファンクネス。 この曲、および演奏は、今の時代にも有効だと思う。 『Fresh』と題されたアルバムのジャケットの中で、スライは屈託のない笑みを浮かべてジャンプをしている。 それは彼流の皮肉だったと考えることもできる。 あるいは、前作で自分の葛藤を吐き出し、薬物中毒を(一応)克服したスライは、本気で「やりなおそう」と思っていたのかもしれない。 このアルバムの邦題は「輪廻」とつけられている。 若干地味な印象はあるものの、本作は『There's a Riot Goin' On』と裏表一体といえる名盤となった。 だが、彼はかつてのような人気やカリスマ性をとり戻すことは二度とできなかったのである。 スライと同時期に活躍したロック・スターには、ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、ジム・モリスン(ドアーズ)などがいた。 そしてその三者は、'70年から'71年の間に、いずれも27歳で命を落としている。 ロックがもっとも熱かった時代を象徴するアーティストだったこと、パッと咲いてパッと散ったという意味では、彼らとスライはよく似ている(年齢も同じだった)。 ただ、ジミやジャニスは死んで伝説になったが、いっぽうでスライは生きのびた。あるいは、死ねなかったと言ってもいいかもしれない。 以後、彼は何度もカムバックをこころみては失敗し、事実上シーンから消えていった。 だが、2006年の2月、スライはグラミー授賞式のステージに姿をあらわす。 銀ラメのスーツ、巨大なモヒカン・ヘアーという格好で彼は「I Want To Take You Higher」を歌った。 これには誰もが目を疑ったに違いない。 2007年に入ると、彼はステージ活動に力を入れ始める。 そして今回の初来日だ。 こんな事を誰が予想しただろう。人生なにが起こるか分からない。 ファンの中には「長生きすれば、いいこともあるものだ」と思った人もいるかもしれない。 デビューから四十年、六十五の齢(よわい)にして今また表舞台に立とうとするスライ。 たった二日間しかない日本公演において、彼はどんなステージを見せるのだろうか。 「In Time」を聴くにはここをクリック。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.08.29 01:04:06
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