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テーマ:洋楽(3364)
カテゴリ:70年代洋楽
↑本日のサブ・タイトルを見たルー・リード・ファンの多くはこう思ったかもしれない。 自分もそう思う いやね、これでも例の「Walk On The Wild Side(ワイルドサイドを歩け)」とどっちにしようか、最後まで迷ったんですよ。いやホントホント。 あ、そこのアナタ、帰らずにもうちょっとハナシを聞いていって………… ルー・リードが'75年に発表した『Metal Machine Music』(上ジャケット)は、ロック史上もっとも悪名高いアルバムとして知られる一枚である。 "一枚"と書いたが、アナログ盤は二枚組のボリュームだ。 にも関わらず、このアルバムにルーの歌はない。 歌どころかメロディもない。演奏すらない。 ここにあるのは、耳障りな電子音、神経を逆なでするようなフィード・バックの洪水である。 「ういーん」とか「じゃー」とか「きーん」「ぴろろろー」とか、そんな類(たぐい)の音だ。 最初から最後まで、64分ものあいだ、それがずっと続くのである。 なめとんのか 当時、予備知識なしにこれを聴いた人のほとんどがそう思っただろう。 いや、今でも拒絶する人が大半だと思われる。 もちろん、すべての音楽が大衆娯楽として成立していなければいけない、ということはない。 ルーが在籍していたヴェルベット・アンダーグラウンドのアルバムにも「Sister Ray」('68年)というノイジーな大作があり、『Metal Machine Music』はそれを極限にまで発展させた作品といえないこともない。 しかし、ここまでくると、すでに音楽であることを拒否しているようにすら思える。 いわゆる"普通の神経"を持った人にとって、このアルバムを聴き通すことはある種の拷問なのではないか。 案の定、『Metal Machine Music』は発表直後から集中砲火を浴びることとなる。 その前のオリジナル・アルバム『Sally Can't Dance』が全米10位を記録するヒットだったのに対し、本作はチャートの200位以内にも入らなかった。スゴい落差だ。 メディアからは長きにわたって「史上最低のアルバム」という、しごくまっとうな称号が与えられたりもした。 自分の場合も、ロックのお勉強をしていくうちに当然ルー・リードに行き着くわけだが、もともとが視野狭窄のポップス人間だったこともあり、『Metal Machine Music』だけは恐くて近づけなかった。 ガイドブックや巷に流れる悪評を真に受けて、「悪魔の音楽だ」などと勝手に決めつけたりもしていた。 が、ある日とうとう覚悟をきめ、おそるおそるCDをプレイヤーに入れてみた。 そしたらである。 わりと普通に聴けてしまったのだ ノイズには違いないのだが、そこには得体の知れない気持ちよさのようなものがあった。少なくとも自分の場合はそうだ。 初期クラフトワークやタンジェリン・ドリームなどのジャーマン・ロック、ソニック・ユースやボアダムスなどの(いわゆる)オルタナ・ロックをさんざん聴いてきたゆえ、耳に耐性ができてしまったのだろうか。 人間の感覚とはおそろしい。そして、いいかげんなものだ、とつくづく思う。 このアルバムには『無限大の幻覚』という邦題がつけられている。 それに対しては、「単なる雑音の塊に意味ありげなタイトルをつけただけ」という意見の人も少なくないだろう。 だが、聴いていると脳がとけそうにもなるこのサウンドには、わりかしその邦題は合っているのかもしれない。 たれ流されるノイズの向こうには涅槃でもあるのだろうか? 発想を変えれば、アンビエント・ミュージックとして楽しむこともできるアルバムだ。 音楽っぽく聞こえる部分もあるし、耳をこらせば所々に美しさを感じる…ような気もする。 とはいえ、さすがにこれを名盤だと言うつもりはないし、「コレが分かる俺様はエラい」などというつもりもない。 下の試聴リンクをクリックしても、半分以上の方は「カンベンしてよ」といって途中で聴くのをやめてしまうと思われる。むしろ、それがまともだろう。 作ったルー本人もそれは自覚していたのだろうか。 アルバム発表後に、ルーみずから「あれは冗談でした」と謝罪文を出した、というエピソードも残っている。 しかし、いつの世にも変人はいるものだ。 ドイツの某有名ミュージシャンなどは、朝起きるとまずいちばんにこのアルバムを聴いていたという。 デヴィッド・ボウイやソニック・ユースのメンバーも、同様の支持者として知られている。 そして近年では、このアルバムを敬愛する者、賛辞を贈る者も日に日に増えてきている。 時代がルーに追いついたのか、あるいは世の中が病んでいるのか。 こんなアルバムが紙ジャケにまでなるんだからなぁ。。。 ルー・リードに対しては、"ロック界の最重要人物"という評価が確立して久しい。 だが基本的にこの男は、"音楽に娯楽を求める人"には不向きなアーティストだと思う。 『Metal Machine Music』は、その極地といえる作品だ。 というより、多くの人にとって、おそらくこれは"作品"ですらないだろう。 そして、そんなアルバムを時々ムショーに聴きたくなる自分は、もうすでに手遅れなのかもしれない。 これが美しきバッド・トリップ・ミュージックなのか、単なる雑音なのかは、聴いたあなたが決めてください。 ただし、これで「ルー・リードはパス!」と決めつけないように。 ロック史に残る傑作と名高い『Transformer』や、ポム・スフレのメインHPで紹介している『Berlin』をまずは聴きましょう つーコトで『Metal Machine Music』(の一部)を聴くにはここをクリック。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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