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テーマ:洋楽(3357)
カテゴリ:90年代以降の洋楽
つまり9・11テロの日である。 前評判からして非常に高かったその新作を当時の僕は楽しみにしていた。 だが、9月11日の夜中に飛び込んできたあのニュース映像(最初はCGかと思った)を見た時には、さすがにそれどころではなくなってしまい、即買いしたアルバムを微妙な気持ちで聴いたことを覚えている。 日本人の自分でさえこうだったのだから、当のアメリカの人達がどうだったのかは推して知るべしだ。 ディラン先生はこの時60歳、デビューしてからちょうど40年という節目だった。 つくづく数奇な星の下に生まれたお方だ、とあらためて思う。 『Love And Theft』の収録曲はすべて先生のオリジナル。 このアルバムをして、先生は「ヒット曲のないベスト盤みたいなもの」と言っておられる。 言葉のトリック・スターであるこのお方の真意は自分のような凡人には分かりかねるのだが、はっきり言えることが二つある。 ひとつは、ロックンロール、ブルース、カントリーなどの"アメリカン・ルーツ・ミュージック"的な音楽、言い換えるならディラン自身のルーツに立ち返ったような内容であるということ。 もうひとつは、(彼の作品としては)非常に聴きやすい仕上がりになっているということだ。 基本的にライヴ録音(一発録り)らしく、サウンドは軽やかでシンプルなものとなっている。 また、全体を包む解放感がとても印象的で、前作『Time Out Of Mind』('97年)の重苦しい雰囲気が好きになれなかった自分には嬉しいものだった。 先生のヴォーカルものびのびとしており、楽しんで歌っている御大の姿が浮かんでくるかのようだ。 そんな中でも自分が特に好きなのは二曲目にあたる「Mississippi」だ。 前作『Time Out Of Mind』で一度録音されながらボツになっており、シェリル・クロウのバージョンが先に世に出た(※)作品である。 ディラン先生は、みずからのプロデュースでそれを再録音。 結果、クロウのヴァージョンを上回る好トラックに仕上がった。 カントリー・フレイバーあふれるイントロ、演奏におけるゆったりとしたビートが印象的。 音の感触はシンプルでポップ、そしてナチュラルだ。 ディラン先生の声は枯れているが同時にリラックスしており、聴いてて疲れない。 楽曲もサウンドも特に新しいことはやっていないのに、ここには不思議な新鮮味がある。 先生は還暦を迎えて、あらたな出発点に立ったのだろうか。 ちょい小粒な所もふくめて、21世紀ディランの魅力をあらわしたシブくてチャーミングな一曲だと思う。 アルバム『Love And Theft』は、全米5位、全英3位と商業的にも成功。 テレビに映るアホのブッシュの顔を見ながら、「ディランは21世紀もイケるぞ」と思った2001年の僕でした。 そしてその五年後に発表された『Modern Times』で彼は、さらに素晴らしいディラン流ルーツ・ミュージックを聴かせてくれるのである。 「Mississippi」を聴くにはここをクリック! ※ シェリル・クロウのアルバム『The Globe Sessions』に収録。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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