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テーマ:洋楽(3364)
カテゴリ:ビートルズ
所詮は何もかもが幻 悩むことなんてひとつもないのさ ストロベリー・フィールズよ 永遠に ジョン作によるこの曲は、リバプールに実在したストロベリー・フィールド孤児院をモチーフにしたもの。 彼は子供の頃、そこの庭でよく遊んだらしい。 絵本に載っている詩のような言葉の数々は、適度に抽象的でやさしい響きを持っている。 メロディ、歌詞共々まさにジョンの最高傑作と呼ぶにふさわしい。 ジョンが出演した映画『How I Won The War』のロケの最中に書かれたというこの曲は、アルバム『Sgt.Pepper's Lonely Hearts Club Band』セッションの最初期に録音された。 アルバムには収録されず(※)、ポールの「Penny Lane」と両A面という形でシングル発売。 ポップ史上最高の両A面シングルとなったが、当時のイギリスではエンゲンプルト・フンバーディンクが歌うムード歌謡「Release Me」に抑えられ、チャート1位を逃している。 また、アメリカでは「Penny Lane」がビルボード1位になったものの、こちらの方は8位にとどまった。 もっともこの曲の価値は、そんな世俗的なデータとははるか別次元にあるものだ。 メロトロンが穏やかに鳴るイントロからして、"いちご畑"に連れていかれてしまうような気持ちになる。 やさしくて不思議な感触を持った音色。この楽器を弾くのはポール・マッカートニーだ。 メロトロンはのちにキング・クリムゾンに使われることでも有名になるのだが、この曲のサウンド自体、当時としてはプログレッシヴだった。 それはゾンビーズ、トラフィック、The Moveなど、同時期の多くのグループに影響を与え、さらには"サイケデリック・サウンド"というひとつのパターンとして後々まで残っていく。 序盤で聴けるモールス信号のような電子音、ふんわりとしたトランペット、溶けていきそうなシタール、幻惑的なチェロなど、すべての音が美しい。 フィルを多用したリンゴのドラム・プレイも聴き所。 コンプレッサーによるタムやバスドラ音のつぶれ具合も非常にいい感じで、これはあの時代の機材だからこそ出たサウンドだと思う。 もっとも、サイケの見本市みたいに思えるこの曲も、当初はジョンがアコギ一本で歌うシンプルなものだった。 そこに当時の文化、LSD、そして出会ったばかりのオノ・ヨーコの影響が加わり、作品はどんどん形を変えていく。 完成ヴァージョンが、ジョンの要望により、二つのテイク(テイク7と20)をつなぎ合わせて作ったものだというのは有名なハナシ。 その二つのテイクはキーやテンポが全く異なっており、編集の際に双方のテープの回転速度を調節して、うまくつなげたのだった。 今でこそ何てことのないテクニックのように思えるが、当時としては大変な作業だったという。 完成バージョンでは、1:00あたりの「 'cause I'm going to」を歌い終わった所でスパッと切り替わるのだが、そのツナギ方は絶妙というしかない。 よく聴けば確かにジョンの声質は変わっているし、作業を行ったジョージ・マーティンも仕上がりには満足していないらしい。 だが、こうしたウラ話でも聞かなければ、"編集してある"なんて聴き手はほとんど気づかないだろう。 なにより、機械ひとつで何でもできてしまう今の音楽にはない"味"が、ここにはあると思う。 演奏はリリカルにフェイド・アウトし、そこで終わったと思わされるのだが、程なくして祭囃子(まつりばやし)みたいな音が聴こえてくるのがチョットだけ怖い(笑 その後ろでジョンは「Cranberry Sauce」と言っているが、これが「I buried Paul(ポールを埋めた)」と聞こえると話題になり、例の「ポール死亡説」を裏付ける一因とされた。 なるほど、ややミステリアスな雰囲気を持つこのエンディングの中では、確かにそう聞こえないこともない(というか聞こえるw こんなオマケが付くところも、フツーのポップ・ソングと違ってていいなぁ(´ー`) メロディ自体は、ビートルズとしてはとりたててポップという程でもないと思う。 それでもこの曲には、圧倒的なオリジナリティと普遍性があり、そして超俗孤高の空気に包まれている。 おそらく、ここには音楽の神が宿っている。 「目をつぶっていれば生きることなんて簡単さ」と歌うジョンの声は悟りを得た者のようでもあり、聴いてて切ない。 色即是空、無我の境地などに通じるテーマがここには静かに流れている。 ジョン・レノン、26歳。この時にして既に人生の真理を知ってしまったのだろうか。 かつて、僕は一度だけ実際のストロベリー・フィールドに行ったことがある。 門の所には落書きがいっぱいしてある汚い所だった。 だが、そこにはこの世のあらゆるものから隔離されたような清らかで不思議な空気が流れていた。 単なる自分の思い込みか。 それともジョンの想い、世界のファンの想いがそこに届いていたのだろうか。 「ストロベリー・フィールズよ 永遠に」と歌われたその孤児院も2005年には閉鎖され、祈祷や瞑想のための部屋を備えた修道施設として建物が使われている。 この世に永遠というものはない。 諸行無常を感じる今日このごろ。 Nothing Is Realである。 「Strawberry Fields Forever」を聴くにはここをクリック。 ※ 現在はアルバム『Magical Mystery Tour』に収録。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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