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テーマ:今日の出来事(292939)
カテゴリ:教授の追悼記
脚本家の山田太一さんが亡くなりました。享年89。
私が山田太一の存在に気づいたのは、やはり『男たちの旅路』でしたかねえ。特攻隊の生き残りで今は警備会社に勤める吉岡司令補(鶴田浩二)、現代風の若者像を代表する杉本(水谷豊)、吉岡らの警備するビルで自殺を図る若い女性・島津(桃井かおり)を中心に、警備の仕事の中で起こる様々な出来事や、それをめぐって異なる価値観を持つ三者のぶつかり合いを描くこのドラマ。見ごたえがありました。もちろん鶴田浩二演じる古い日本の男の姿と、水谷豊演じるちょっと軽薄な若者像の対立が見どころなんですが、山田太一の脚本は、どちらの立場にも必要以上に肩入れせず、若者の考え方だって、一見、軽薄なようでいて、実は鶴田浩二の古い考え方を揺さぶるような何かがあるというところを描いているところが素晴らしかった。 子供だった私は、鶴田浩二のことを、ヤクザ映画で知る前に「吉岡司令補」で知ったんですな。 そして『岸辺のアルバム』ね。このドラマの背景となった多摩川の氾濫、私は小学生の時に身近に見ていて、実際、学校の友人の家が流されたりして、その救済のための募金とかもした。そういうこともあって、家族の拠り所が流されるというストーリーにリアリティを感じましたねえ。しかもこのドラマの場合、「家」という家族の拠り所を失うことによって、それ以前に拠り所を失っていた当該家族が、逆に、精神的な結束を取り戻すという山田脚本の妙も良かった。 一方、青春群像『ふぞろいの林檎たち』は、実は私はあまり見ていないの。若者のごたごたを描くこのドラマ、私はもろに同世代だったので、気恥ずかしくて。 その他で思い出すのは、前にこのブログでも書きましたが、『今朝の秋』というドラマね。親より先に息子が死ぬというストーリー。このドラマでも家族は既に崩壊していて、崩壊しているなりに安定していたんだけど、そこで息子が癌にかかってもうすぐ死ぬという状況が出来し、安定的に崩壊していた家族がもう一度集まり、この状況にどう立ち向かうか、皆で考え直さざるを得なくなるという話。父親を演じた笠智衆、母親を演じた杉本春子、死にゆく息子を演じた杉浦直樹、息子の妻を演じた倍賞美津子と、配役がやはり素晴らしかった。 父親の笠智衆が、息子・杉浦直樹を病院から拉致し、信州の別荘に行くシーン。そんな大それたことをしでかす父親に対し、「お父さんはすごいな」としきりに感心する息子。自分の死を嘆く息子の言葉に、「死ぬ死ぬって、自分だけ特別であるようなことを言うな。誰だってみんな死ぬんじゃないか」と叱る父親。そしてその言葉に逆に励まされる息子。父との最後の「病院抜け出し冒険」のことを、「あれは楽しかったなあ」といって死んでいく息子。どれも涙なしには見れません。 これこれ! (1時間2分目くらいのところ、刻一刻と表情が変わる杉浦直樹の演技が凄い!) ↓ 『今朝の秋』 アメリカの劇とかドラマって、基本的には家族の崩壊を描くものばっかなんですけど、山田太一の脚本ってのは、その逆なんだよね。崩壊していた家族が、ある意味、もう一度再生する話。そこがとても良かった。 それにしても山田太一って、配役が上手いよね! たとえば『日本の面影』という、ラフカディオ・ハーンの日本時代のことを描いたドラマがあるのだけど、そのハーン役にかのジョージ・チャキリスを配し、しかもそれがどはまりだったのだから。 あと、山田太一に関して、私の印象に残っているのは、早稲田での学生時代から寺山修司と仲が良かったということ。というと、きちんとしたサラリーマンとヤクザが仲の良い友達でした、と言われるような不思議な感覚があるんだけれども、その事実を知った上で考えると、確かに山田には寺山的なやくざな側面があり、寺山には山田的な生真面目な側面があるという感じがする。寺山ファンの私としては、山田が寺山の良き友人だったということだけで、山田に対して好感が持ててしまいます。 まあ、どれもこれも「山田太一節」ばかり、というのはあるかもしれないけれども、それにしても高い水準をキープしたドラマの脚本を、あれだけ長い間、沢山書き続けたのだから大したもの。「え、脚本は山田太一なの? だったら見よう」という気にさせてくれる人なんて、そう大勢いるものではありません。 そんな現代日本を代表する名脚本家・山田太一さんのご冥福をお祈りしたいと思います。合掌。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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