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テーマ:今日の出来事(292938)
カテゴリ:教授の追悼記
詩人で小説家の三木卓先生が亡くなられました。享年88。昨日の山田太一さんに続いて、二日連続の追悼記になってしまいました。
私と三木先生とのお付き合いは、ちょうど十年前、私の身勝手なお願いから始まることとなりました。 2013年、私は『S先生のこと』という本を書き、後に日本エッセイスト・クラブ賞を受賞することになるのですが、これは最愛の奥様を亡くし、また最愛の御子息を失った我が師匠・須山静夫先生の生涯を綴ったもので、世間的にはあまり知られていない一研究者の伝記ですから、当初、とても売れるとは思わなかった。 しかし、師の生涯のことを一人でも多くの人に読んでもらいたいという気持ちが強く、この本を読んでくれる人、そしてできればその本のことを書評したり宣伝したりしてくれそうな人を求めて、大勢の方に寄贈したんです、手書きの直訴状を添えて。 で、そんな風に拙著を一方的に送り付けた方々のお一人が三木卓先生であったと。 なぜ三木卓先生に拙著を送ったかというと、その前年、2012年に三木先生が『K』という御著書をお出しになっていたから。ご存じのように『K』は、三木先生ご自身の亡くなられた奥様の生涯を描いた本。そういう本をお書きになられた直後だったので、最愛の妻を失った私の師匠の伝記に、興味を示して下さるのではないかと思ったんです。 無論、それは私の方の勝手な思い込みで、三木先生がそれに反応して下さるかどうかは別の話。私としても期待はしていましたが、その反面、実はさほど期待もしていなかった。「人は赤の他人のことにそこまで興味を持たない」ということは、それまで散々経験していたことだったので。 ところが、三木卓先生は、反応して下さったんです。先生は拙著のことを、鎌倉にある神奈川近代文学館の出している小冊子の中で取り上げ、非常に好意的な書評をして下さった。無名の著者からいきなり送り付けられた本に対し、心のこもった扱いをして下さったんですな。感激した私が早速お礼状を認めたことは言うまでもありません。 以来十年。私は本を出す度に三木先生に謹呈し、また年賀状を送るようになりました。そして先生からも礼状や年賀状をいただくようになりました。毎年、三木先生に宛てて年賀状を書く時は、気合を入れて、先生の面前にあるように姿勢を正して、一年の振り返りと、来るべき新年の抱負を書いたものです。 そして今年の正月、三木先生からいただいたお年賀状には、このように書いてありました。「あなたらしい目のつけ方は続いているんですね。がんばって下さい」と。三木先生に「あなたらしい目のつけ方」と言っていただいて欣喜雀躍、ますます頑張らねばと決意したことを昨日のことのように覚えています。 そして今年もまた年賀状を書く時期が回ってきて、つい先日、三木先生に新年に向けての私の抱負を記したところでした。そこに私は、「今やっている研究テーマは、おそらく私が研究者として取り組む最後の大テーマとなるものですので、精一杯楽しみながら、全力を尽くしております」と書いたのでした。 しかし、私が書いたその年賀状は、先生には届かぬものとなってしまいました。 今年は、亀井俊介先生が亡くなり、三木卓先生も亡くなり、心の中で「この先生に見ていただくために本を書く」と思って、密かに私淑していた先生方が次々と亡くなられてしまい、本当に寂しい。文字通り、ガックリ、という感じです。 私のような無名の者が書いた本でも、その思いを汲んで大事にしてくださった三木卓先生の温かく広い心を思いながら、先生のご冥福をお祈りしたいと思います。合掌。 K (講談社文芸文庫) [ 三木 卓 ] 【中古】S先生のこと /新宿書房/尾崎俊介(単行本) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
December 2, 2023 12:56:51 PM
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