カテゴリ:旅行記
2.「水をかける月曜日」
私は町で絶好のターゲットだった。中国人と思われ、子どもにからかわれる。まあ、そんなことはよくあること。外国人なんていないであろう土地に私が歩くだけでもとにかく目立つのだ。そういう場所で歩くのは思いのほか度胸がいる。それは私が小心者だからかもしれないが、見知らぬ土地を歩くこと、そして人からの視線に緊張しない人は少なくないだろう。それでもいつも好奇心のほうが勝つのだった。 それは、「水をかける月曜日」だった。ポーランドでは、キリストの復活祭、つまりイースターの月曜日に、男の子が女の子に水をかける習慣がある。聖水をかける、という意味らしいのだけど、実際私が体験したのはそんなにありがたいものではなかった。水をかける、というより「ぶっかける」と言う方が正確かもしれない。この本来神聖であろう祭日の名の下に、バケツを持って、町行く女性に当たりかまわず水を「ぶっかけて」よい日。小さな男の子たちにとっては面白い日なのだろうが、女性にとってははなはだ迷惑というか、町を歩く気になれない日であることには違いない。 私もその存在を知らなかったわけではない。ただ旅行に来ているのだから、「水をかける月曜日」だろうがなんだろうが、ホテルに引きこもっていては意味がないだろう。朝、ホテルを出、注意を払いながら町へ出かけていった。その日は、湖まで行くつもりだったのだ。 結果から言ってしまえば、「大丈夫だろう」という私の考えは、甘かった。それは、駅へ向かう商店街らしき通りを歩いていく途中。ある建物を通り過ぎる際、突如上の方から水が降ってきた。そしてそれは見事私の頭に命中した。頭を抱え、とっさに上を見た。…しかし、水をかけたであろう人物の姿はもうそこにはなかった。 ……やられた。死角、だった。まさか、上から来るなんて!! そう思ってまもなく、子どもたちがバケツを持って私のほうに駆け寄ってきた。身の危機を感じてとっさに逃げるも、間に合わず。子どもたちは、わーっ、とうれしそうに騒ぎながら、駆けていく。私は頭からびしょぬれになった。しめった頭をかかえ、ぬれた服を見やってため息をつき、ふと通りの向こう側を見ると、若いポーランド人の女性がやはり水をかけられている。彼女も逃げられなかったみたいだ。 ……なんて迷惑な習慣……。 しかし私はホテルには戻らず、ぬれたままバスへ乗り込み、湖へ向かうことにした。 (続く) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
February 16, 2005 10:16:18 PM
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