カテゴリ:旅行記
4.幼なじみ
「(ここにいる)みんなは幼なじみだよ。こんなガキの頃からのね」 そう切り出したのは、ホテルの女主人と一緒に私を部屋に迎えに来た彼だ。青年は「ガキ」の頃の背丈を手で示した。 他のみんなはすでにジュークボックスの方で、音楽にあわせて騒がしく踊っていた。 「…でも、仲よさそうに見えるけどね、友達とは言えないよ。」 この会話が、みんなに聞こえないのを確かめてからそう言った。私はびっくりした。 「みんなライバルなんだ。誰が多く金を稼ぐか。あそこにいるあいつだって、スペインに出稼ぎに行くという連絡さえくれなかったんだ。スペインに数年いて、電話をくれたのはたった一回さ。」 「ドイツ人はみんなで協力しようとする。でもポーランド人は、協力しようとはしないんだ。みんなライバルなんだよ。この血がね、そうさせるんだ。そういう民族なんだ」 彼はそうこっそりと教えてくれたのだった。寂しそうな表情をしていた。 あんなに仲よさそうに見えるのに・・・。 本当の友達じゃないなんて。 寂しい。 でも、どこかで心は、本当は、通じてるんじゃないのかな。 私はここではただのお客だ。 全く関係のない他人にだから話せることってあるのかもしれない。身近な人だからこそ話せないことも、あるんだとしたら。 私は翌朝早くに、駅を出た。 ホテルの女主人さんが出てきて、出口まで送ってくれた。 「私たちのことを覚えていてね!」、と。 辺りは曇っていてまだ寒い。再びここを訪れることはもうないだろう。そう思って、自然の景色を目に焼き付けてから、人気のない電車に乗り込んだ。 ポーランドではイースターが終わると、真っ白い、長い冬は終わりを告げる。一度死んでしまったかのような木々に芽がつきはじめ、やがてその葉が開き、新緑が辺りを覆い始める。私にとっては特に長い冬であり、待ちこがれた春。冬があまりにも長いと、芽をつけた枝を見つけただけで春を想い、感嘆するようになる。私はポーランドにいて初めて、春が訪れることの「奇跡」を知った。死後3日後に甦ったキリストを祝う復活祭。そのキリストの復活とともに気候は暖かくなり、裸の木々は命を取り戻す。その春の訪れの「奇跡」は、まるでキリストの復活の奇跡を更に際立たせ、象徴づけているかのようだ。 「本当によくできているよ。」 そんな風に友人が言った事がある。確かによくできている。この時期にあって、復活祭。行事というのは、本来どこでも季節とともにある、ということを感じさせる。 そんな、イースターの時期の出来事。この旅の印象は、なんとなく寂しく、そして同時に人の暖かさを感じるものだった。印象に残るのはあのひっそりとした錆びれた駅、でもゆたかな自然と、イースターのゆったりと流れる空気。緑に囲まれた河沿いで遊ぶ男の子たち、と水をかけられた思い出。あの場所を思い出そうとして頭に思い浮かぶのは、いろんなものが混ざり合ってひとつのうねりを織り成すような、織り成す、としか表現のできない感覚。 そんな印象の、旅。 (終わり) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
February 25, 2005 12:28:24 AM
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