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カテゴリ:どきどきミステリー
映画化もされた「ラプラスの魔女」の前日譚を読んだ。
〇ストーリー ーーーーーーーーーーー 「ラプラスの魔女」に登場した天才少女・羽原円華が主人公の連作短編集だ。語り手は若手鍼灸師の工藤ナユタだ。第1話,第2話は,ナユタの顧客であるスポーツ選手が登場し,彼らが抱えている問題を円華が謎の能力で解決してみせる。 こうした展開の連作だと思っていたら,第3話,第4話で「ラプラス・・」本編に絡むエピソードが見え隠れして,と前半と後半でだいぶ雰囲気が異なっていた。 羽原円華の能力の秘密についても解説されないので,本編を読まないと,謎の天才少女が全て解決してしまう,というSFファンタジーと受け止められてしまうだろう。難しい。 ーーーーーーーーーーー 工藤ナユタについても,少しずつヒントを散りばめつつ,第4章で過去が明らかになる。これによりナユタはきちんと主人公になれるのだけれど,内容がえらく重苦しくて,バランスを欠いている気がした。 すっと1本につながるのは見事なのは間違いないのだけれどね。 ーーーーーーーーーーー 映画タイアップで発刊した作品と言われても否定できないなあ。 映画版では広瀬すずが羽原円華を演じたらしい。 ーーーーーーーーーーー 各編について簡単に感想を述べる。 「風に向かって飛べ」:ベテランスキージャンパー・坂屋は引退を考えていた。その前になんとか表彰台に乗った姿を幼い息子に見せたくて,鍼灸師の工藤ナユタに治療を頼む。大学の研究室で待ち合わせをした2人だが,そこには風を読むことが出来る少女・羽原円華が居合わせた。事情を聴いた円華は,坂屋の夢を叶えてやると言い出す・・・スキージャンプのデジタル解析と言えば「鳥人計画」だ。懐かしい。円華が無理のない形で登場。短編としては家族愛もあり,よい出来。 「この手で魔球を」:ナユタの顧客であるプロ野球ピッチャー・石黒は引退を考えていた。彼の魔球ナックルボールを捕球できる唯一のキャッチャーが膝の故障で引退するからだ。若手キャッチャーの山東がその後継者として期待されていたのだが,ある時からナックルボールを捕球できなくなってしまったのだ。円華は石黒のナックルボールを山東の目の前でキャッチして見せるというのだが・・・これは危険過ぎる。どうして誰も止めないんだろう?最後が毎回運任せなのは良くないなあ。 「その流れの行方は」:ナユタの高校時代の恩師・石部が教員を休職しているという。石部の息子がキャンプ場で川に落ち,植物状態となってしまったのだ。石部は自分がすぐ川に飛び込んでいれば救えたかも知れないと悩んでいた。円華は実際に川で実験をしてみせて・・・円華の父親の存在がぐっと前面に出て来た短編だ。反面,これまでのスポーツ選手,円華の天才的分析,というのは登場せず,乱暴な実験をしただけ。これで大人を納得させるのは難しいのでは? 「どの道で迷っていようとも」:ナユタの顧客の盲目の作曲家・朝比奈は,パートナーの勇を山の事故で失っていた。朝比奈は,自分がLGBTをカミングアウトしたことで,勇が自殺をしたのではないかと悩んでいた。ナユタと円華は実際にその場所まで行ってみる。すると?・・・朝比奈のエピソードは前半の短編同様にほどよい密度でまとまっている。そこに工藤ナユタの過去の秘密を混ぜて来るので重苦しい短編に仕上がってしまっている。必要だったのかなあ? 「魔力の胎動」:赤熊温泉で親子3人が硫化水素中毒で死ぬ。その調査を依頼されたのは地球科学を研究している青江教授だった。・・・ナユタは?円華は?確かに本編「ラプラスの魔女」の前日譚で,そのままつながるんだけれど,唐突過ぎる。ナユタはやっぱり主人公じゃなかったのか?可哀相。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2020.06.15 17:13:38
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