「ピリオド(苦い娘)」打海文三を読んだ
突然親戚を喪った女性が,その謎を追求するという打海文三の長編を読んだ。〇ストーリー永井万里子は憧れていた叔父が殺されるところを目撃してしまう。真相を探るために,彼女はかつて叔父と母親と親友だった男に調査を依頼する。そこから見えてきたのは,生まれつきの詐欺師だった叔父と,彼が出会った悲しい男の人生だった。〈アーバン・リサーチ社〉,マフィア,警察の三つ巴の中,きちんとトラブルを押さえ,関係者に安心をもたらすのは誰なのか?-----------打海文三のハードボイルド作品の多くが,〈アーバン・リサーチ社〉という調査会社の調査員たちをメインのキャラとして描かれている。ただ面白いのは,ある程度は登場人物は重なるものの,主人公は毎回異なる人物であり,シリーズとしては,ゆるいつながりとして設定されていることだ。この作品では,主人公・万里子が調査を依頼する相手が,〈アーバン・リサーチ社〉の元調査員・真船だ。「時には懺悔を」では佐竹,「されど修羅ゆく君は」では鈴木ウネ子と野崎,と調査員が登場していたが,今回も別の人物だ。打海作品では,調査員が行うのは仕事と個人の両方に密接に関わる問題であることが多いので,同じ人物でシリーズ化は難しいのかも知れない。この作品では,サービスなのかも知れないが,過去の主人公たちが”カメオ出演”的に顔見世をする。それだけだけど読者はちょっとうれしい気持ちになる。-----------この作品で評価が難しいのが,主人公が一定しないことだ。詐欺師の叔父を持つ万里子を語り手として,物語は始まるのだが,途中から彼女が調査を依頼した元探偵の真船が主人公ポジションになる。中盤以降は真船が調査を自主的に進め,万里子には詳細も知らされない,という状況になる。確かに予想以上に事件の状況は複雑となり,真っ直ぐな性格で活動的という万里子の手には負えないということは分かる。けれども,それを理由にして依頼者かつ最初の主人公である彼女に状況を知らせず,ワガママな依頼人扱いをする真船のことは,あまり好きになれない。万里子だけでなく,魅力的な女性たちが何人も登場したのに,それを活かし切れていない印象を受けた。物語の中心をどこに置くか,がきちんと出来ていないと感じた。-----------この作品では3人のクズ男が登場する。1人目は誰にも好かれ,誰をもだました生まれつきの詐欺師である叔父。2人目は女衒から成り上がり,既存のルールに縛られずに成功した病んだ男。そして3人目が周りの事情を無視して自分のルールを押し通し,その反動で幻覚を見るほどのノイローゼになる探偵,つまり後半の主人公だ。最初の2人は,弱さが愛おしさに変換するというポイントがあるので,女性たちがいろんな理由で放っておけなり,一緒にぐずぐずと落ちていく,あるいは成り上がりに協力するということが起きるのは分かる。最後まで理解出来なかったのが,オッサン主人公対して,女性主人公,彼女の母親,成り上がり男の娘,と,次々にイイ女が好意を持ち,行為を要求することだ。この幻覚オッサン,それほど仕事出来ないのに。-----------打海文三作品,そして〈アーバン・リサーチ社〉関連作品という枠組みに収まっていることもあり,打海文三ファンは外せない作品ではあると思う。いろいろと思うところはあるが,キャラクターの魅力に殉じて赦すことにしようと思う。・・・われながら傲慢な言い方だが。