「ダイイング・アイ」東野圭吾を読んだ
東野圭吾のC級サスペンスを読んだ。〇ストーリーバーテンダーの雨村慎介は,店じまいをして帰ろうとしたところ,誰かに殴られ死にかける。なんとか回復し,退院し同棲中の成美のところに帰宅する慎介だったが,家の状況に違和感を感じる。そして彼の元に刑事が訪れ,犯人が自殺したことを告げる。さらにその男は慎介が起こした交通事故で死亡した女性の婚約者だったという。だが,慎介にはその記憶がなく,事故について調べようとすると知り合いに止められる。さらに謎の女が彼に近付き・・・-----------主人公の雨村慎介はホステスの女性・成美の部屋に転がり込んで暮らしている,という設定なので,さぞかしいい加減なヤツかと思っていたが,意外と捜査能力も責任感もあり,どんどんと謎へと迫っていく。当初慎介は,自分を襲った男の目的を知ろうとして行動を起こすが,それにより自分の記憶の欠落に気付き,過去の事故の調査を始める。素人が調査をしていろいろ嗅ぎ回るって,絶対上手くいかないと思うのだが,なぜか順調に真相が見えてくる。夜の世界にはトラブルが多そうなので,バーテンダー探偵というのも面白いかも知れない。-----------2007年に刊行された作品なのに,その頃の東野圭吾作品と異なるのはなぜだろうと思っていたら,連載されたのは1998年と刊行約10年前だった。1998年の「秘密」,99年の「白夜行」より前の東野圭吾の作品群は,どうも優等生がいろいろ迷いながら書いている印象があって安定しないという評価が多い。この作品はまさにその頃のもので,迷った末にホラーサスペンス風を目指した,という”やっちゃった”感のあるものだ。なにしろ終盤は複数の登場人物が,あるトラウマに囚われて偏執狂的な行動をとる。一応は合理的な説明を取ろうとしているものの,トラウマが伝染するなど,どう考えても超自然現象だ。本格ミステリー作家を目指している東野圭吾として,これはありなのだろうか?-----------ひじょうにご都合主義の主人公の記憶の欠落,分かりやすく次々と進む謎解き,主人公の奇異な行動に寛容な周辺,突然のエロ展開,そして謎のオカルト能力・・・これまでかなり大量の東野圭吾作品を基本的には発表年次順に読んできたが,この作品が突出してこれまでのワースト1だと断言できる。-----------グレーな作品ならは他にもあるが,この作品は確実に読む価値がない。