「ツバメ号の伝書バト(下)」アーサー・ランサムを読んだ
「ツバメ号とアマゾン号」シリーズの第6部の下巻を読んだ。〇ストーリーきちんとしたキャンプを設営でき,子どもたちだけの冒険生活がとうとう始まる。長い金鉱探しの後に,見つかった鉱脈から精製されるのは金なのか?彼らに徐々に迫る怪しい男〈つぶれソフト〉の目的は何か?金の精製の失敗の後に,子どもたちを大きな危機が襲う。そこで彼らを助けてくれたのは?・・・ーーーーーーーーーーー〈ツバメ号とアマゾン号〉と言えば,ヨットでの帆走のイメージが強いのだけれど,「ツバメの谷」「長い冬休み」そしてこの「ツバメ号の伝書バト」を含め,同じメンバー,同じ土地なのだけれど,実はほとんどヨットが出てこない。今回,そうした指摘をしている感想文を読んで驚き,そして納得した。アーサー・ランサム作品の面白さは,ヨットの帆走にあるのではない。作品が持っている,日常を冒険に置き換えてしまう魔法的な手法によるものだ。ーーーーーーーーーーー実際に,第1巻から少年少女たちは,〈自分たちが構築しようとしている冒険者の世界〉と〈大人たちが押し付けてくる現実の世界〉を切り分けようと懸命に努力をしていた。〈ツバメ号〉のウォーカー兄妹と,〈アマゾン号〉のブラケット姉妹が,そうした感覚を共有できたことが全ての奇跡の始まりだ。普通,最初の挨拶が矢を射ることってのはあり得ない。2つの家の出会いは,ウォーカー兄弟の母,ブラケット姉妹のジム叔父,そして次に加わるカラム姉弟へと広がり,大人と少年少女の共犯的な,休みの期間だけのスケールの大きいロールプレイとして,広がっていく。なんておおらかで優しい世界だろう。ーーーーーーーーーーー『ツバメの谷』に続き,少年少女は湖を離れた場所でキャンプを設営する。それは台車や自転車を交互に引っ張らないと到達できない高地だ。彼らは8人と大所帯となり,年長者4人,年少者4人と少しグループが分かれる。実はこの作品では,炭坑,山火事など,これまで以上にリアルに命の危険がある状況が描かれていて,年長者はどうしても大人の代理人としての言動をせざるを得ない。彼らが中学生程度と考えると,かなり酷な状況に投げ込まれていることになる。さて年少者たちものんきに過ごしているワケではない。ネタバレを避けるために具体的な内容は避けるが,上巻のラストではティティが,下巻で早々にロジャが,そして上下巻を通じてディックが大活躍をして,少年少女の探検をぐっと前へと進めることになる。ドロシアはノートを提供してくれたけど,それはそれでひじょうに潔い行為だった。ーーーーーーーーーーー湖水地方で起きるとは思えなかったほどの劇的な場面が終盤に訪れる。ただ思い返してみれば,各作品で終盤にはそれぞれ大事件が起きていたようなので,それほど驚くことではないのかも知れない。いつもの湖なのに,作品ごとに少しずつ地図が広がり,主人公たちが体験する冒険の質も少しずつ変わる。さすが世界的に読み継がれているシリーズだ。どこまでも読者を飽きさせない。40年ぶりの再読でもずっと楽しめた。