「いちえふ」竜田一人を読んだ
福島第一原発を舞台にしたレポートマンガを読んだ。○ストーリー〈私〉,竜田は,東日本大震災で爆発事故を起こした福島第一原発,通称〈1F(いちえふ)〉で復旧作業に従事している。原発の中での仕事とはどんなものなのか?そして人々はどのようにして,この職場に辿り着いたのか?これまで誰も描かなかった内部の物語が描かれる。------------福島第一原発内部での復旧作業の現実は?それは一部で噂されているように,東電やメーカーの社員は安全な場所にとどまり,作業員は自分の生命を危険にさらし続ける暴力的な職場なのか?このマンガを読むと,そうした疑問に分かり易く,丁寧に,そしてどこかアッケラカンとした空気で答えてくれる。〈いちえふ〉では,驚くほどのローカルルールがある。手袋,靴カバー,靴下,タイベック(つなぎ),マスク,そして様々な放射能汚染を防ぐための運用ルール。いくつものチェックゲートをくぐり,散々準備してきたのに,場所によっては放射能の濃さゆえに働ける時間が30分しかない,という驚く状況がある。たぶんわずらわしく,苦痛で,イライラする状況ばかりだと思う。それなのに,作品の中の作業員たちは,かなり淡々とそれをこなしている。けれども,こうしたわずらわしいローカルルールは,よく考えてみれば工事現場,製造工場,販売店,オフィスなど,どんな職場でもある。たまたま厳しい報道規制があって,情報が流れてこないので,悪い噂ばかりが知られているが,この作品から見えてくるのは,フツーの人がフツーに仕事をしているフツーの職場の姿だ。------------この作品で面白いのは,ビジュアルに追体験できる〈いちえふ〉での作業の日常が大きいが,もう1つが作者がこの職場に至るまでの不思議な経緯だ。フツーにハローワークで紹介されている求人に応募しても,連絡待ちの状態となる。ようやく現地に行っても,いわゆるタコ部屋風の宿舎に入り,健康診断を受けた後は,またまた待機状態となる。そうした状態で苦労し,資格を取ったり,他の職場で働いたりしながら待ち続け,〈いちえふ〉で働くことが出来たのは,求職を始めてから1年近く経っていたという。いくらでも人手が必要な状況なのに,希望している人も仕事をもらえない,不思議な状況であることは間違いない。一方で,ひょっとしたら世界で一番危険な職場かも知れないのに,日給は8,000円スタートだ。うーん,噂されている高給で使い捨てという話とはだいぶ違うね。------------いろいろ考えるところはあるけれど,こうした作品を通じて情報が流れることは,とても貴重だと思う。絵柄は劇画っぽいが,まあ一定レベル。それよりも,小さい幸せを忘れない,ニュートラルな姿勢の方に感銘を受けた。きっと発見がある。オススメだ。