「ウインクで乾杯(香子の夢)」東野圭吾を読んだ
東野圭吾のライトタッチの初期長編を読んだ。〇ストーリーパーティ専門の派遣アルバイトの小田香子は,更衣室として使われていたホテルの客室で,同僚の絵里が死んでいるのを発見する。その事件は絵里の自殺として処理されたが,不審に思った香子は隣人の若手刑事と協力しながら独自に調査を始める。やがて彼らは,事件の背景に宝石販売会社,イベント派遣業,不動産会社に関連した過去の事件が絡んでいることを知る。だが犯人たちの反撃により・・・?----------新書版のノベルで発表された作品だが,2時間サスペンスドラマ向けに書かれたと思われる。きっとミステリー作家に対して,こうした傾向の作品を書いてもらえないかと持ち掛けるのだろう。いくら初期とはいえ,東野圭吾とは思えない軽い世界観なので,だいぶ戸惑う。さらに主人公の女性がパーティ・コンパニオンで,自分の容姿を利用して玉の輿を狙っていると公言していることも驚きだ。現代から見るとこの女性の考え方が理解出来ないという部分もあるが,苦労をしてもじっと耐えるという東野圭吾作品の女性像とはだいぶ異なるのが大きい。パーティ・コンパニオンという言葉自体が今の人々に伝わるのかどうかも分からないが,クラブなどの座って接客する女性ではなく,立食パーティでお酌と会話のお相手をあくまでも立ったまま行う職業(のはず)だ。自分目当てにクラブに通ってもらった客と懇意になるのではなく,派遣されたパーティで出会った客に見初められる,というのが夢なのだから,この主人公はかなりの自信家だ。----------主人公は隣人となった若手刑事とは仲良くなるのに,一方で不動産会社や宝石販売店の重役ともデートを重ねる。この軽さにはゲッソリする。被害者となった同僚の絵里や,事件に関わる他の女性たちの方が,味方も敵も含めて自分の愛を基準に真っ直ぐに生きている。主人公だけがダメな人間だ。他の作品を読んでいると,東野圭吾は真面目な人だと感じるが,この作品を最初に読んだら,軽い考えの人物だと思ったに違いない。----------この作品のもう1つの欠点は,ミステリーとしての弱さだろう。最初に起きる密室での毒殺事件の謎解きは,〇〇を〇〇で〇〇したというトリックだ。まさかの小学生レベルトリックを堂々と作品で出してくるとは?バイプレイヤーから次々に出されるトンデモ謎解きの1つだと思って読んでいたら,これが真相ということになっていて,卒倒しそうになった。そこに至るまでの流れだったり,人物入れ替えなどはきちんとしているのに,ここだけ手抜きとは残念だ。----------東野圭吾の「殺人事件は雲の上」もバブルの空気が漂うミステリーだったが,連作短編集ということもあり,コメディミステリーとして楽しむことが出来た。この作品は,軽い主人公,実は重い過去,手抜きトリックと,いろいろとバランスが悪い。東野圭吾にも作品は多いので,次に期待しよう。