「指きりは魔法のはじまり(シノダ! 10)」富安陽子を読んだ
記念すべき第10作となる富安陽子の〈シノダ・シリーズ〉の新作を読んだ。○ストーリー信田家は,シノダのキツネのママと人間のパパを持っている。3人の末っ子のモエは通っている幼稚園で,ある男の子に誘われて園の隣にある園長の庭へと忍び込む。その秘密を守るためにモエが男の子は指切りの約束をするが,そのために信田家はとんでもないトラブルに巻き込まれる。姉のユイと兄のタクミは,男の子の正体を探ろうとするのだが,それは予想外の大きな範囲となり・・・------------富安陽子の〈シノダ・シリーズ〉の10作目記念作品を読んだ。10作目となるが,1作目から数えると15年が経過している。他のシリーズでも書いたことだが,児童文学シリーズの難しさの1つが,作者の執筆ペースと読者の成長のスピードがマッチしないことだ。作中ではユイ,タクミ,モエの姉弟の年令は一定だが,現実世界では15年間が経過している。小学低学年で第1作を読んでくれた読者も,今では社会人となっていて,高い確率でもう児童文学は読んでいないはずだ。姉や僕は甥姪がいることもあり,ほぼ途切れることなく児童文学を読んできた。学生時代も好きで,子育て期間中にも読み,甥姪が読まなくなっても読み続けている。我々がまれなタイプであるのは重々承知だ。この〈シノダ!〉や〈こそあどの森〉など,長い時間をかけて醸成された優れた児童文学のシリーズはあるが,作者の労力と読者の子供たちが結局はすれ違っていくことを考えると,何やらわびしい気持ちになってしまう。--------------このシリーズは,母方であるシノダのキツネが関連する物語が多いが,それ以外の不思議な存在が登場するパターンもある。今回の作品は,”それ以外の不思議な存在”の物語だ。またこれまでのシリーズでは,信田家がどこか遠い所に出かけたり,連れて行かれたり,というのがほとんどだったが,今回は彼らが住んでいる団地で全体が推移する。この状況ゆえになのか,逆に主人公からこの設定を定めたのかは分からないが,今回の主人公は,シリーズを通して初めて,末娘のモエとなっている。10作目にして,まだまだ富安陽子はいろいろと挑戦している。エライ!--------------前半はモエが主人公となっているが,さすがに幼稚園の年少なので,後半はいつも通りユイとタクミが語り手となる。ここで面白いのは,地元の”不思議な存在”に迫るために,ユイが複数の伝承を比較するミステリーの謎解きのような部分だ。それによりモエが出会った存在が誰なのか?何をしようとしているのか?が徐々に見えてくる。このバランスは見事だ。そしてこの伝承に絡んでくるのが,1作目に登場したチビ竜のことだ。これを読んだ時はさすがにゾクゾクした。こう来たか?!!--------------終わってみれば信田一族総登場の記念的な作品となっていた。1作目を読んだ小学生はもう読んでいないだろうけれど,僕はずっと読み続けるつもりだ。