「密室殺人ゲーム 王手飛車取り」歌野晶午を読んだ
歌野晶午の衝撃的な連作短編集を読んだ。○ストーリーネットで知り合い,面識の無い5人が,ネットワークで繋がっている。毎回1人が殺人事件を紹介し,残りの4人がその謎を解くという趣向だ。だが通常のゲームと違うのは,出題者が実際に殺人を犯しているということだった。彼らはリアルな殺人者で,互いにメンバー犯罪の謎解きにも挑んでいるのだった。だがこの殺人ゲームは,さらなる地点に彼らを連れて行くのだった!------------ネットで出会った人々が,恋人になったり,結婚することもあるし,ネットで犯罪仲間を募って,窃盗,暴行,殺人までが起きている。そんな時代なので,この作品の設定をリアリティが無いと笑い飛ばすことが出来ない。身近に窃盗や暴行はあっても,殺人事件まではなかなか起きない。人間はかなり丈夫でおまけに賢いので,殺すことは大変だ。警察は地道にしつこく捜査をするだろうから,100%犯罪を隠すことは困難だろう。よって,怒り,怨恨など激情によって自暴自棄になっているのでなければ,危険とメリットのバランスが取れないだろう。”ペイしない”というヤツだ。------------文庫で500ページを超える厚さだが,章ごとに目先が変わるのでリーダビリティは高い。ひじょうに現代的な内容で,驚きも多いのだが,後半雰囲気が変わってくる。ミステリーの地平を広げた作品,は言いすぎかも知れないが,充分以上の楽しみを与えてくれる。------------各編について簡単に感想を述べる。「Q1 次は誰を殺しますか?」:殺人ゲームが始まる。最初の被害者はディズニーマニアの女子大生,次の被害者は野球好きの青年,第3に被害者は飲食店店長の中年。〈aXe〉が出題する稀代の連続殺人の法則とは?・・・1つの法則は意外と早く気付くのだけれど,もう2つは全く分からなかった。最初のゲームなのに,10人も殺し続けるなど事件もヘビー,真相も見事。「Q2 推理ゲームの夜は更けて」:次のゲームが始まる前に,彼らは普通の推理ゲームを行う。特急列車の中で男が死体で発見された。だが犯人はその時間,別の列車に乗っており,席を離れていたのも10分程度だった。〈伴道全教授〉の伝統的な列車ミステリーの謎は?・・・Q1と比べてあまりにもあっけないので脱力。「Q3 生首に聞いてみる?」:男の生首がアパートの自室で発見される。一方で彼の身体は近くの公園で発見された。だが,男の悲鳴が聞こえた時から身体が発見されるまで,その間を大荷物を持って移動した人物の姿は見られていないのだった。〈ザンギャ君〉の仰天トリックが炸裂する!・・・Q2の不満を消してくれる驚きのミステリーだ。でも本当に上手くいくのかこのトリック?「Q4 ホーチミン-浜名湖五千キロ」:前日にベトナムにいたはずの犯人が,浜名湖サービスエリア駐車場で女性を殺害する。5,000キロの距離を埋める不可能トリックとは?〈伴道全教授〉は時空を超えることが出来るのか?・・・意外とリアルに周辺を詰めて行くことで,真相が見えてくる。ちょっと面白みに欠けるかな?「Q5 求道者の密室」:塀で囲まれ,警備員が巡回し,各屋にもセキュリティシステムを導入している安全第一の新興住宅地で,男性が殺害された。彼はこの安全な住宅地で,自宅の寝室で殺されていた。何重ものセキュリティをかいくぐった犯人の手口とは?無口な〈044APD〉の意外な行動は?・・・ほとんど発言しないのに真相を見抜くことの多い〈044APD〉が驚きの行動力を発揮する。これは怖い。「Q6 究極の犯人当てはこのあとすぐ!」:なかなか開始されない次のゲームを待ちつつ,彼らは推理ゲームを行う。・・・Q2と同様に,メンバーの会話と小ネタを楽しむ章だ。「Q7 密室でなく、アリバイでもなく」:引きこもりの青年が死んでいるのを家族に発見される。彼らの自宅はオートロックの高層マンションで,窓も扉も施錠されていた。果たして犯人は?〈頭狂人〉の狂った出題とは?・・・また密室殺人かよ?と思っていると,物語は意外な方向へと進み始める。さらに驚きの展開が!!「Q? 誰が彼女を殺しますか?/救えますか?」:メンバーは貸し別荘でオフ会を開催する。〈頭狂人〉の捨て身の問題とは?・・・偶数の章は小ネタのはずなのに,これまでの流れを覆す重い物語。そして唐突な終わり。またまたびっくりだ。