「チームひとり」吉野万理子を読んだ
「チームふたり」から始まった小学生卓球ストーリーの3作目を読んだ。○ストーリー小学校3年生から卓球を始めた双子の広海と大洋は,強い双子のダブルスということで何回も取材を受ける存在だった。だが親の転勤で東小というところに転校してきた時,広海だけを残し,大洋は卓球から離れる。5年生の時は,キャプテンの純とダブルスを組んだ広海だが,6年生となり新キャプテンとなった広海に組む相手はいなかった。中学に進んだ純とも不仲となってしまい,いよいよ広海はたったひとりとなってしまうのだが・・・?-----------1作目は大地が6年生,純が5年生で,2作目は純が6年,広海が5年,今回の3作目は広海が6年と,1年ずつ代替わりをしていくシリーズだ。2作目では純が6年になってから,つまり完全に1作目の後日として物語が始まったが,3作目では広海がまだ4年生で前の小学校にいたころまでさかのぼって始まる。部分的には第2作目の物語が,広海の視点で語り直されるなど,シリーズものとして,かなり立体的な構成となっている。2作目以上に,過去作品の登場人物を再登場させている様子で,クライマックスに読者サービス的な驚きが待っている。2007年から毎年年末に1作が発表されているシリーズなので,今年は4作目が発表されるかも知れないが,それなりにまとまりがついたので,これでシリーズ完結となってもおかしくは無い。-----------3作目の主人公・広海は,2作目で既に描かれていた通り,実力もあり,勝気な性格で,フツーはライバル的な存在になるようなキャラクターだ。2作目の主人公の純とは対照的な性格で,自分の気に入らないことはなるべく回避しようと行動する。だが,そうした性格の広海を,前の小学校までさかのぼって描写することで,表面に出ている態度と,内面の心の動きを描くことで,主人公らしく読者が共感を持てるキャラクターへと成長させている。-----------広海と同様に,前作から成長を見せているのが,東小のコーチ・大滝だ。2作目では,大人のいい加減さを見せる,という意味の貴重なキャラだったが,この作品では,時々そうしたズボラな性格を見せるものの,基本的には的確な指導をする,頼れるアニキという存在になっている。どこか強烈なリアリティがあって,このお兄さんは憎めない。-----------1作目の主人公・大地が再登場するだけでなく,大地の母親,そして妹・陽子も登場する。陽子は4年生となり,東小の卓球部に入部し,広海をたじろかせるほどの前向きな性格を見せている。4作目が発表されるのならば,この作品では5年生のミチルが主人公で,勝気な陽子とのペアに苦労する,という内容ではないかと思う。シリーズで,過去の登場人物の状況について触れてくれるのはありがたいが,この作品では,キャラクターの増加の程度が高すぎるような気がする。この先も続けるならば,そろそろ少しリセットしてもいいかも知れない。-----------クライマックスのサプライズを含めて,とても楽しめる作品だった。シリーズファンが失望することは無いと思う。