「リボルバー・リリー」長浦京を読んだ
「赤刃」に次ぐ,長浦京の第2作となるハードボイルド作品を読んだ。〇ストーリー生まれ育った四谷を離れ,偽名で秩父で暮らしていた13才の少年・細見慎太。東北で生まれ,台湾の特殊機関で育てられた女性・小曽根百合。だが慎太の父親が巨額の資金への操作が全てを破壊し,2人の孤独な人間を帝都東京を目指す盟友へと作り変える。彼らを狙うのは,陸軍の1,000人と,水野商社配下のヤクザ者500人だった。硝煙と流血の末・・・ーーーーーーーーーー大正末期の社会状況を綿密に調べて執筆された作品だ。関東大震災,大陸の状況,アメリカからの軍縮圧力,陸軍と海軍の勢力争い,そうした要素(だけではないが)を背景にしているので,主人公2人の驚くほどの逃避行が一定のリアリティを持って迫ってくる。ーーーーーーーーーーこの作品が面白いのは,主人公たちが登場した瞬間から犯罪者ということだ。慎太は陸軍を騙したことで彼らから追われる男の息子だし,百合は多くの人物を殺めた過去を持つ諜報員だ。2人は終われる立場となるが,決して無実無辜ということではない。親のしでかしたことや,過去の犯罪歴を含めると,”そりゃ,追われるよね”という状況だ。なので彼らは,陸軍の一部とヤクザからも追われるけれど,主人公が善,追う者が悪,という単純な二元論ではない。主人公たち側にも悪の要素があり,それを承知で作品は展開する。女子どもが主人公で悪,なかなかに画期的だ。ーーーーーーーーーー物語は,大正末期の東京を舞台背景として展開する。作者・長浦京のとてつもないリサーチと読み込みの結果,これが産まれているに違いない。当時の文化や流行,建物,会社などが物語に有機的に織り込まれて登場する。この努力には100%脱帽し敬意を表する。2次資料,3次資料の知識だけから時代観を出そうとしている作品が多いが,それらに比べ比類のないリアリティを醸し出している。ーーーーーーーーーー作品はハードカバーで500ページの大作となっていて読むと”おなか一杯”という気分になる。長いだけでなく,とにかく熱い。百合に恩義があり2人を助ける弁護士,百合を教育した元馬賊の女,この2人の行動も描かれ,帝都が揺れる数日が克明に描写される。もうちょっと軽くすることも可能だろうけれど,長浦京作品なので高いテンションのまま突っ走ってしまう。それにしてもよくも作家の第2作目にここまでヘビーなものを執筆させたもんだ!ーーーーーーーーーー次の第3作目はさらに話題となった「マーダーズ」だ。楽しみだ。