恐怖のPTC
昨年、不本意ながら私は当時小学3年の長男のクラスの、 PTA役員に選ばれてしまった。 やりたくないと駄々をこねても、無駄なあがきでしかなかった。 私は学級部という部署に配属された。 仕事内容は、年に1回の親子のふれあいを 計画・実行する事だった。(PTCとかいうやつ。) 何をするか、懇談会で話し合う事になったが、 積極的に意見を出す者がいない。 歴代の3年生のPTC行事が書かれたプリントには、 みんなで焼きそばを作る…とか、 みんなで焼きいもを作る…とか、 そんなものは家でやれというものばかりであった。 そんな中、ある気になる項目を見つけた。 『親子でドッジボール』 こ……、これだ! 『意見が出ないなら、ドッジボールにしましょう。』 私がそう言うと、みなホッとして賛同してくれた。 『ただし。』 私の強い口調に、場が静まり返った。 『これは、本気のドッジボールです。泣こうがわめこうが、 本気で戦ってください。』 担任の先生は、何故か大賛成だった。 誰かしらに恨みでもあるのかのようだった。 懇談会に来ていたお父さんたちも、腕が鳴るぜ…とばかりに、 頬を染めて張り切っている。 ただ、娘を持つ母親だけは、不安な表情であった。 そしてその日はやって来た。 『第一回、真剣ドッジボール大会』開幕。 親子が入り乱れる4チームでのトーナメント戦。 優勝チームには賞品が用意されている。 『ケガは自己責任』というスローガンを掲げ、 試合開始のホイッスルが体育館に鳴り響いた。 大人には負けないとか思ってた子供たちの顔色が、 見る見る血色の悪いものに変わっていった。 きっと聞いた事もないボールの打撃音。 汚い言葉を吐きながらボールを投げ合う大人たち。 それを目の当たりにし、 泣き叫ぶ子供たち。 それそれ。 その顔が見たかったんだよ。 配偶者は、敵陣のハイキングベアーを狙い撃ちだ。 (『ワンピース』チョッパー編参照。私はキチンと挨拶している。) 先生は、見た事もない嬉々とした表情で、 子供たちを次々仕留めていった。 途中、審判をする私の傍に、長男がやって来た。 『もう、したくない…。』 その目は涙で濡れていた。 ボールが女の子に当たると、可哀相!と叫ぶ母親がいたが、 ならば、参加すんじゃねぇ…とばかりに無視しました。 大会が幕を閉じる頃には、大人たちには団結力が芽生えていた。 子供たちは、時間が早く過ぎればいい…と、願うのみだった。 そして今年度。 またもやPTCでは『ドッジボール大会』が催されたが、 (私は役員ではない。) ボールが巨大で柔らかいものに変わっていて、 何の迫力もなかった。 痛くはないだろうが、遊びの中ですら痛みを避けようとする、 その親心は私には一生分からんぞ。 ほら、見てみろ。 つまらなそうに先生が舌打ちしてる。 来年は、 『アームレスリング大会』 なんて、どうだろうか。