今のJリーグクラブの観客動員と経営の状況は、大きく次の4つに分類されると思われる。
1・営業努力が実って観客大動員に成功し、これが他の収入にもつながり、
親会社なしでも利益を出せるクラブ(浦和、新潟)
2・営業努力が実って観客動員においてそこそこの成果はあるものの、
依然として親会社の助けが必要なクラブ(大分、東京、横浜など)
3・営業努力はしているが、観客動員においてまだまだ満足の行く成果が
出せていないクラブ(多くのJクラブ)
4・営業努力をする以前の、会社組織の問題などで苦しんでいるクラブ
(柏、神戸、名古屋など)
※大分は親会社を持っていないが、現状の動員成績などを見て、カテゴリ分けするに当たりここに入れさせてもらった(親会社がないからこそ動員で成果が出ていても昨年のような危機にも陥るわけだが、彼らのやり方は本来のJの理念からすると正しい)
4は論外として、1~3は、その地の環境で左右された部分も大きいが、観客動員戦略の努力の程度でも決まってくる。とはいえ、地域密着と軸があるJリーグは多くのクラブは2くらいまでは行けると思う。もしかしたら新潟2号みたいなクラブも出るかもしれない。ただ、1やその上となるとどうであろうか。例えばFC東京ならFC東京で、正直今のままでは経営上の更なる大きな飛躍(つまり、収入が2倍になるとか)は難しいと思う。現状はまだ下のクラブが多く、彼らの底上げを待つ時期なのかもしれないが、私は上のクラブの更なる飛躍という観点において、今年あたりを境にJリーグの限界が見え、行き詰るのじゃないかと思う。
Jリーグクラブの経営について別の言い方をすると、Jリーグはこれまで、地域密着以外のツール(ここで言う「ツール」は、試合の価値を上げることを指す)での観客動員戦略は、そこまでしていたわけではない。今の状況が続くと、ある程度まで観客が増えても、そこから更に価値を上げる努力をしないことには、観客単価も上がらずスポンサー料や放映権料も伸びない。それでは「親会社なしでも運営できる」理想形は作れないし、レベルも上がらない。
例えばイングランドと日本で比べたとき、収入差が出るのは放映権だけではない、入場料もそうである。プレミアリーグは平気で1試合5000円くらいが相場となっている。確かに、チケットの単価を上げることは収入増のためには必要となる(もちろん、プレミアの価格は異常であるし、闇雲に値段を上げろというわけではない。席単価を上げて付加価値を提供する顧客と安く楽しんでもらう顧客に分けるなど工夫すればよい)。
Jリーグの経済規模は今やオランダとフランスの間くらいまで来ている。ただしそれは、物価指数を考慮に入れていない数字であるし、経済規模とは裏腹にリーグの選手レベルはまだそこまで行っているわけではないのが現状だ。つまり、地域密着だけで伸びては来たものの、欧州が行ってきたことを踏襲するだけでは収まるところに収まるしかない(下手をすればベルギーリーグクラスに落ち着くだろう)。そんな状況をファンが許すはずはない。
先に述べたいろいろな価格を上げるには、それ相応の価値をバックする必要がある。例えば年間チケット購入者にだってそうだ。それが試合時のおまけのイベントでもよいし、ギブアウェイ(無料プレゼント)でもよい。それで顧客が満足すればよい。だが、これがとても難しい。企画を行う人材もノウハウも未だに手弁当に近い(それが悪いとは言わないが、限界はある)。つまり、このような企画が実際の結果につながるほどの高みに行くには、それ相応の人材やノウハウが必要ではないか。そして、この部分に投資できるか否かが今後のJリーグにおいてキーになってくると思われる。
これは日本のスポーツ界全体に言えることだが、これまでほとんどのクラブは「投資」と言ったときに「選手の投資」や「設備の投資」しか考えてこなかった。これはクラブレベルを上げるためであるし、それもかなり重要ではあるが、今後Jリーグが行わなければいけないだろう、クラブ価値を上げるためにできる投資はこの2つに留まらない。例えば選手に礼儀作法、インタビューの受け答えを指導する人材だって必要だし(マンUなんかはテレビ局の元キャスターを引きぬいてやっている)、ファンイベントのためにプロのイベンターを起用するのだってよいだろう。カラスコという、マスコットの中の人材にお金をかけた楽天は事実、彼が観客動員に大きく貢献した。観客動員増大のためにジダンやロナウドに10億も払おうとするなら、他にやることがあるだろうと言いたい。
この戦略に問題がないわけではない。何より費用対効果が見えづらいという問題が生じる。そこに投資してどれだけ収入が増える見込みがあるのか、そのデータが日本にないのである(こういう部分こそ、自分を含めてアカデミックの人間が研究すべきなのだが…情けないことにこっちも人材不足である)。
他の問題でいうと、例えば付加価値を上げることでロイヤリティを感じ、「毎回来なくてもシーズンチケットを買ってくれる人」が増えるかもしれない。しかしシーズンチケットが増えるのはチケット販売的にはいいが、来られない人が多い場合に、スタジアムが空席で空虚感が生じるリスクがある。ので、行けないと分かっている人への転売システムなどを作ることが求められるが、こういうものにITは欠かせない。他にも、付加価値の向上にITは確かに使える。しかし、そこまで頭を回してITを使うだけの人材とお金は、今のJリーグの規模では簡単には捻出できないと思われる(CRMに至っては、1流の企業で100億単位の投資をするような代物だ)。成功するかもわからない、どれだけのリターンが見込めるのかわからないのが現状であり、どこかが「はじめの一歩」を踏み出さない限りは。
ただ、Jリーグはどこかでこの一歩を踏み出さないことには、現状からの大幅なアップは望めないのではないか。どこでこの流れが変わるかが見ものである。