ママ、パイパイちょうだい
お腹に赤ちゃんがやってきて、見た目もずいぶん妊婦らしくなった昨今。KENTが自分から服越しに、「赤ちゃんチュー。いいこいいこねー」なんてするようになって、赤ちゃんの存在を意識し始めている。一日の中でのんびりした時に、「だっこしよっか。ほら赤ちゃんみたいにねー」なんて言いながら、照れるKENTを膝の上で横抱きにして、ぎゅーっとすることもしばしば。「ケンケン赤ちゃんじゃないよう」と言いながらも、まんざらでもない顔をする。妊娠してから、いつも以上にKENTとのコミュニケーションの時間を作るように心がけているせいか、今のところ、精神的には落ちついている・・・と思っていた。でも最近、KENTが急に、「ママー、パイパイ(おっぱい)ちょうだい」と言うようになった。断乳は半年前に済ませている。一緒にお風呂に入っても、見向きもしなかったのに、今になって急にそう言うのだ。一瞬躊躇したが、これがKENTの赤ちゃん帰りなら、拒むのではなくしっかり受け止めてやろうと、「いいよ、パイパイほしいの?」と差し出した。KENTはしばらくじーっと見て、嬉しそうにぱくっと吸い付いた。吸われても、もう何もでないおっぱい。むしろお腹が張る。でもKENTは幸せそうに目をつむって、「パイパイおいちいねー」とつぶやいた。これを皮切りに、KENTは眠い時には必ず、「パイパイちょうだい」と言うようになった。こっちも妊娠してから、思い存分遊んでやれなかったり、家にいる時間が増えたりと、後ろめたい気持ちがあるので、それくらいの要望なら満たしてあげようと、おっぱいを差し出してしまうのだ。妊婦検診の時、先生にそのことを相談すると、やはり子宮の収縮につながるので、やめたほうがいいと言われた。その晩、おっぱいにからしを塗った。二度目の断乳である。KENTはびっくりした顔をして、大泣きをした。「ママのパイパイ辛い辛いよぉ」とワンワン泣いた。そして、「ママ、お手手ならいい?」と、手のひらをおっぱいに当てて眠るようになった。それでも一日一度は、「ママ、パイパイ今日からい?」と聞いてくる。「うん。からいよ」と言うと、すごく寂しそうな顔をする。そしておっぱいに手を当てて眠る。なんだかすごくかわいそうになった。ある日、いつものように、「パイパイ今日からい?」と聞くKENTに、「今日は辛くないよ」と言ってやると、「わー!ほんとに?」と言って、飛びついてきた。慎重に吸い付いて、「ほんとだー。パイパイからくないよー。ママよかったねー」と満面の笑みでチュウチュウ。そして幸せそうに眠りについた。私はKENTの寝顔を見ながら考えた。おっぱいをあげないのは誰のため?お腹の赤ちゃんを守るため?KENTのため?私のため?・・・わからない。答えは出ないまま、結局今でも一日一回だけ、お昼寝の時におっぱいで眠るKENT。夜はパパに存分に遊んでもらって、疲れて一人で寝るパターン。こんなことをしていると、早産になるかもしれない。入院中、私がいなければ寝られないかもしれない。出産後、赤ちゃんにおっぱいを取られたとやきもちを焼くかもしれない。不安は残るけど、今はKENTの赤ちゃん帰りを、なんとか満たしてやりたいと思うのだ。