塩と運命の皇后 ニー・ヴォ
塩と運命の皇后 (集英社文庫(海外)) [ ニー・ヴォ ]<あらすじ>50年ぶりに湖の封印が解かれるとき、追放された悲劇の皇后の伝説が幕を開けるー。歴史収集の旅をする聖職者チーは、ある時立ち寄った湖のほとりで、ひとりの老女に出会う。亡き皇后の侍女だという彼女に導かれ、チーは皇后が幽閉されていた屋敷を訪れる。そこで老女は思い出の品品を手に語り始める。美しく残酷な真実と運命の物語を。著者デビュー作にして2021年ヒューゴー賞受賞作。全2篇。ヒューゴー賞受賞作ということとタイトルで興味をひかれて入手。表紙のイラストがとても素敵。短編が2作収録されている薄目の文庫なのですが、短い中に濃密な世界観があり、歴史の記録者、語り部の視点と歴史上の出来事が交差するので、初めての作家さんなので、展開がまったく読めない中、手探りでじっくりと読み進めました。人語を解する鳥が出てくるファンタジーだったとしても、その世界観が童話のように甘いとは限りません。歴史を記録する者が傾聴する、という形で歴史上のある日ある出来事ある人物が語られ、読者は遠巻きに俯瞰していたかと思ったら、事件現場に居合わせたような気もちに。史書の記号のような名前ではない、人々の心の痛みを感じ、歴史というのは記録上の出来事ではなく、人の営みの重なりなのだと、そんなことを感じながら読みました。1作目は歴史秘話のようなかんじで好みのテイスト、2作目は虎シフター?が思いがけず出てきて嬉しい。実際はこうだった、と虎が主張する内容と、言い伝えの内容の齟齬があるのは、現実でもあるあるの出来事なので説得力あり。寓話チックでありながら、構成が巧みだなと思いました。挿入されていた詩はかなりロマンチック!