重陽、菊花の約
9月9日、長陽の節句。旧暦では10月下旬にあたるそうだ。 中国での由来は、奇数は陽で吉に通じる、そして9は奇数の究極であり、この数字が重なる9月9日こそ重陽であり、目出度いということになる。 本人や家族の無事長命を祈念して、菊花を盃に浮かべて飲むなどの風習も生まれた。「菊の節句」というに相応しかったが、いま菊はまだ蕾状態でピンとこない。 上田秋成の雨月物語に「菊花の約(ちぎり)」の巻がある。「重陽の佳節をも帰来る日とすべし。必此日をあやまり給ふな、一枝の菊花に薄酒を備へて待ちたてまつらんと…」 約束を交わした義兄・宗右衛門を迎えるために、貧しいながら左門は美酒、鮮魚を備え、黄菊、白菊を2,3枝小瓶に挿し飾った。月明かりのなか、やっと帰ってきた宗右衛門、しかし無言のまま、盃を取ろうとしない。 問い質すと、従兄弟の城主が聞き分けないため出雲の城を抜け出すことが出来ない宗右衛門は契りを果たそうと思い悩むが、「魂魄は一日千里を走る」との言い伝えが脳裏に浮び、さらばと自刃して死霊となり陰風とともにここに参じた、と言う。嘆き悲しむ左門に「元気で、母上を大切に」と言い残し、地獄風とともに宗右衛門の姿は消えた。 後日譚。百里離れた城に赴いた左門は詰問した後、城主を一刀両断切り捨てた。