『掌の酒』を読む
1995 たる出版 藤本 義一著 章立てからして花の章に始まり、鳥、風、月、星、雪と花鳥風月の世界で酒の風情を醸し出してまんなあ。物語はちゅうと氏が見聞しはった事柄を酒にからませながら短編小説に仕立て上げられたもんだす。 元々『たる』という酒誌に連載されたもんで、ほとんどの章は酒飲みながら2、3時間で書き上げはったものでおます。そやさかい物語の展開が飄逸、文体が軽妙酒脱で、読むものを飽きさせん面白味やほろ苦さがでてるんや、ほんまに。 たとえば、親父から継いだ志野焼にまつわる話はほろりとさせられますなあ。親父がそもそも祖父が出征の前の晩にこのぐい呑みに初めて酒を注いだのが最後の別れになる。 そして、このぐい呑みにちなんで、志野という名前をつけられた娘が、親父の定年の晩と嫁ぐ前の晩に、ぐい呑みで一人寂しく飲んでいる姿を垣間見る、そして親父の死後、娘が志野焼を三代目として受け継ぐんですわ。 そして、終章には川島雄三監督との酒の交遊が書かれているが、監督の死後25年経って墓碑にボトルの酒をかけたと締めてはります。