シングル母のアメリカ暮らし

長靴。
エプロン。
エプロンと共布の、ナプキン。
同じくランチョンマット。
上履き。
お着替え袋。
そしてパンツ。

よし、これでいい。
明日は次男のキンダーガーテン初日。
といっても明日はまだ、親が一緒にいなければならない。
ひとりで頑張るのは明後日からだ。


今日は長男のクラスの初日だったので、始業式に参加した。
始業式は１年生から８年生まで、各クラスの担任が子供たちを紹介する。
１学年ひとクラスなのであっという間だ。
ハイライトは「ウェルカム・プレゼント」
毎年８年生が、１年生に「ようこそ」の意を込めて
赤いバラの花を１本ずつ手渡す。
大きな８年生がひざまずいて可愛い１年生にバラを手渡す様は
なかなか微笑ましいものがある。

式の後、父兄のために用意されたクッキーや果物を
夢中でつめ込んでいた次男が、急にこちらに来て
「オレの部屋が見たい」と言い出した。
じゃ、行ってみようかと次男の手を取る。

小さな校舎の、
奥の奥にちんまりとたたずんでいる
ひときわ小さな可愛い部屋が、次男のクラスルームだ。
クラスルームの裏庭は大きな木が１本
その木を取り囲むように、切り株で区切られた砂場がある。
次男の顔がうれしそうに輝いた。

中に入ると、パステルカラーの虹色に彩られた部屋に
先生がいた。「ハーイ、元気かい、A？」
この先生は長男の担任でもあったので、次男の事は知っている。
次男は恥ずかしそうに笑って、あたりを見渡した。
おもしろそうな木のおもちゃ、布製のお人形、
ままごとセットや手染めのシルクが所狭しと並んでいる。

長男が通っていた頃のこと。
朝、長男をクラスルームまで送ると、自分も居残りしたくて
毎朝のようにすねたり涙ぐんだりしていた次男だ。
２年たってやっと自分の番が回ってきたのだ。
これから毎日この部屋で、

歌を歌ったり
花を髪に挿してダンスをしたり
水彩画を描いたり
パンをこねて焼いたり
野菜スープを作ったり
遊んだり、遊んだり、遊んだり。

この学校のキンダーは「勉強」というものをしないので
子供たちに取っては毎日が天国だ。
というより、親はみんなこんなふうに言う。
自分が子供だったら、入りたかったなあ、と。

息子はさっそく床に座り込んで
積み木で遊び始めた。
私は先生と少しお話をした。

息子の担任だったわけだから
当然と言えば当然だが、うちの事情もすべて知っている。
私と同じくらいの年齢で、
髪を長く伸ばしてポニーテールにし、
口ひげを蓄えた男性だ。
厳しいところは厳しく、しかし決して声は荒げず、
静かな口調で子供たちに接している。
この先生の事は心から信頼している。
息子と同じクラスの女の子の父親でもあるので、
親の立場もよくわかっている。


次男が「喉が渇いた」と口にした。
先生は「ではお水をあげよう」と流しにいき、
和風の小さな湯のみ茶碗で、お水をくれた。
次男はその場でごくごく飲んで、お代わりを頼んだ。
その間、次男を見下ろす先生の目はとても優しい。

水を飲み終わった次男に
「さ、そろそろ行こうか」と促した。
息子はうなずきながら私の方にかけてきて、
ちょっと立ち止まって振り返り
「ありがとう。また明日ね」と言った。


これからの１年間、
楽しい事がこの教室にいっぱいつまっているといいね。




本日の献立；
チキンとにんじんのワイン煮、玄米、ズッキーニの炒め物、スイカ