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~さわやかに香る風~

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 時は少し遡って。
 巧とロイキの二人は、希色たちが向かったであろうマジョンナの家を目指し、全力で駆けていた。
「…ねぇ!ちょっと、巧!聞いてる?」
「…え?あぁ、何?ごめん、聞いてなかった」
 後ろを付いてきていたロイキと話すために、スピードを若干緩めて巧は聞きなおした。
「も~!何度も聞いてるのに全く反応なしなんだから!」
 ロイキが息を弾ませながら巧を睨みつける。
「ご、ごめん!希色ちゃん達を追いかけるのに夢中で…」
 巧はそうは言ったものの、実際は先ほどの取り乱した様子の希色と、彼女を慰めていた亮介の二人の図を思い出しながら、心配すると同時に妙なドキドキ感に悩まされていたのだったが。
 そんなことなど露ほども察していないロイキは再度巧に問うた。
「んもぅ、気をつけてよね!…で、希色達の行き先には心当たりあるの?」
「あぁ、それなら大丈夫!恐らく、っていうか間違いなくマジョンナさんの所だよ!最初からその予定だったから」
 きっと、予想外の展開に、二人はマジョンナに助けを求めに行ったに違いない。
 ただ、もし自分も一緒に鏡を届けに行ったとしても、それを使って結局はこちらの世界に来ることになったのだろうか、と巧は思うのだった。
「りょーかい!…ところでさぁ、ちょっと休憩しない?このままのスピードじゃバテちゃうよ。まぁ、いつもはこれくらい全然平気なんだけどさ、なんか調子悪いんだよね」
 ロイキが不満を垂れたが、巧は前を見つめたまま、
「ダメだよ!一刻を争うんだから。…たぶん」
 と首を捻りつつ頷いた。
「まぁねー、このまま戻れないんじゃかなりヤバいことになるよね。アタシも時間が経つほど厄介なことになりそうな気がする。調子悪いのも戻れなくなってからだしなー。何か関係あるのかも」
 巧は今度はロイキの言うことには何も答えず、このまま戻れない場合どうなってしまうのかを頭の中で想像した。
 さっきロッキーが言ってた通りだとすると、自分の存在自体がなくなってしまうんだよな…。そのまま行方不明扱いになって、マスコミに大騒ぎされるかもしれない。
 みんな必死に自分を探すのだろうか。
 そうだ…母さんは…戻ってきた時にそのことを知ったら…。父さんの次に俺まで失ってしまったら…。
 独りぼっちになってしまった母を想像すると急に気持ちが焦りだし、無意識に駆け足をさらに速めた。
 そのまましばらく二人の間では会話はなく、二人は一心に走り続けた。
 もうしばらくでマジョンナの家に辿り着くという時、後ろにぴったり付いてきていたロイキが声を上げた。
「巧っ!ストップストップ!!」
 そのまま肩を掴まれ、巧は駆け足を止めた。
「えっ!?なんだよっ!」
 もうすぐ到着といった時の突然の停止に、巧は無意識に半分怒った口調でロイキを振り返った。
「…はぁ、はぁ。…怖っ、そんな顔で睨まないでよ」
 ロイキの反応を見て、巧は慌てて「あぁ…ごめん」と顔を拭った。
「うん…まぁ、いいんだけど。それより見て!」
 ロイキの指差した先には公園が、そしてそこにはミクタと思われる自分と同じ姿の者と、黒い服に身を包んだ見たこともない長身の男が向かい合っていた。

「ミック!!」
 それぞれに名を呼び、巧とロイキは公園へ駆けつけた。
 駆けつけた二人にミクタは気づいたようだったが、彼らに体を向けることはせず、目の前の相手を見つめたまま二人に待ったの手を出した。
「気をつけろ!こいつはやばいかもしれない…」
 ミクタの発言に、巧達はほぼ同時に彼の視線の先の相手へと首を向けた。
 ソバージュのような髪型に真っ白な肌、垂れがちな目に紫がかった唇の端にピアスといった顔立ちのその男。
 そんな風貌に黒尽くめの服装が合わさると、何とも異様なオーラを醸し出していた。
「俺は、やばくない」
 黒尽くめの男は突然口を開いた。
 巧は思わずビクッとしたが、気を持ち直して男を見据えた。隣ではロイキが目を見開いている。
「見た目はどう見てもやばそうにしか見えないけどね」
 ミクタが男を睨みつけながらフッと笑った。
「俺、何も危害は加えない」
 男はそう言ってミクタに近づこうとしたが、彼はそれを許さない。
「そうは言われてもね…この辺では見ない顔だし、自分で見たことある?自分の出で立ち。怪しいことこの上ないんだけど」
 ミクタの強い疑いに、男は眉間にしわを寄せ、困った顔になった。
「じゃあ、どうすればいい」
「率直に聞くけど、あんた、何者?鏡の世界のバランスがおかしくなってきてることに関係あるんじゃない?」
 ミクタが聞くと、男は「俺、違う」と首を振った。
「俺、マジョンナに、会いに来た」
「…マジョンナに?」
 三人は顔を見合わせる。
「そうだ。大変だから、マジョンナが心配になってきた。マジョンナはどこだ?この辺だと思うのに見つからない」
 黒尽くめの男はそう言うと、公園の周りを見渡し始めた。
「マジョンナを知ってるって事は…」
 巧がロイキに向かって言うと、彼女は頷いた。
「普通の人じゃないのは確かだけど。う~ん、ややこしい事になりそう…」
 そんな二人をよそに、ミクタは相変わらず男から視線を逸らさなかった。
「信用できないね。状況が状況だし。マジョンナに会わせたら、何をしでかすかわからないし」
「そんな…」
 男はその大きな体と風貌に似合わず、今にも泣き出しそうな顔になった。
 が、その顔はすぐにパッと明るさを増した。
「その心配は無用よ、ミック」
 巧達の後方から女性の声がした。
 三人が一斉に振り向くと、そこには話題の主であるマジョンナが、笑顔で立っていた。

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最終更新日  2006.11.08 12:09:30
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